artscapeレビュー
『チビチリガマから日本国を問う!』
2010年09月01日号
会期:2010/08/13
新川区民館[東京都]
西山正啓監督によるドキュメンタリー映画の上映会。彫刻家の金城実と読谷村村議の知花昌一を中心とした反米軍基地運動のメンバーが、鳩山前首相が公約した普天間基地の県外移設をめぐって、国会議事堂前で抗議の座り込みを続けた様子を記録したドキュメンタリーだ。この映像を見て教えられたのは、金城による政治運動がじつに魅力的で、それは彼が制作する彫刻作品とは別の次元で、「芸」の域にまで到達しているということだ。国会議事堂の前で支持者や警察官に向けて演説する口ぶりは達者であり、聴衆の心を鷲づかみにする術を心得ているし、金城のパフォーマンスと比べると、支援する立場の国会議員による演説がなんとも空疎に響いてならない。知花の三味線にあわせて金城が下駄を両手にかざしながら踊るパフォーマンスも、パンクのように無茶苦茶だが、だからこそ人びとの眼を惹きつけてやまない舞踊である。金城の彫刻も、我流を貫き通す意志で成り立っている。同時期にギャラリーマキで催された金城の個展では、テラコッタによる素焼きの彫刻作品などが発表されていたが、その大半が人体や肖像を形象化したもので、文字どおり荒削りのフォルムがなんとも魅力的である。美大で教育を受けたわけではなく、風呂屋とストリップ小屋で人体のかたちと光の陰影について修行したという逸話も、近代彫刻の歴史には見られない、親しみやすい彫刻の印象を強めているのかもしれない。「彫刻は死んだ」とか「絵画は死んだ」とか、芸術の世界では知ったような議論がまかり通っているが、そうした机上の空論に現を抜かすよりも、金城による生きた彫刻と政治パフォーマンスに触れるほうが、はるかに私たちの生を豊かにしてくれるに違いない。
2010/08/13(金)(福住廉)