artscapeレビュー

やなぎみわ「Lullaby」

2010年03月15日号

会期:2010/01/29~2010/03/21

RAT HOLE GALLERY[東京都]

やなぎみわの新作は、お馴染みの少女と老婆をテーマとする仮面劇の映像作品。縮尺が微妙に狂った暖炉のある部屋の中で、黒い小さな老婆が、白い大きな少女に膝枕をしてあやしながら、子守唄を唄っている。そのうち不意に少女が目覚め、激しい格闘が始まり、老婆はねじ伏せられる。そうすると、今度は少女が老婆を優しくあやしながら子守唄を唄いだす。そういう短いストーリーが何度かくり返され、そのたびに老婆と少女の立場は逆転することになる。
話そのものは単純だが、フォークロアによくある繰り返しの効果がうまく使われていて、なかなか面白かった。何よりもよかったのは「笑える」ことで、これはやなぎの新境地といえるのではないだろうか。二人の格闘シーンがかなりリアルで、静かな子守唄の場面との落差が笑いを呼ぶのだ。最後に今まで老婆と少女がいた居心地のよさそうな部屋の壁が崩れ落ちて、彼女たちが吹きっさらしの都会のビルの屋上にいたのがわかる。このあたりの展開も、鮮やかに決まっていた。神話の中に日常が紛れ込む方向性が見えてきたのが収穫といえそうだ。入口のパートに旧作が数点かかっているだけで、あとは映像を淡々と上映するだけの会場構成はすっきりして悪くないのだが、もう一工夫あってよかったかもしれない。

2010/02/06(土)(飯沢耕太郎)

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