artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

坂田和實の40年 古道具、その行き先

会期:2012/10/03~2012/11/25

渋谷区立松濤美術館[東京都]

古道具坂田の店主・坂田和實の展覧会。坂田が収集してきた古今東西の古道具150点あまりを一挙に展示した。古道具といって侮るなかれ。一点一点の造形は、並大抵の現代アートを蹴散らすほどの迫力がある。
野良着や質屋の包み紙、水中メガネ、ブリキの玩具。雑巾があれば伊万里の小椀もあり、仮面や聖者像もある。いずれも古色蒼然としているが、いずれも味わい深く、なおかつ美しい。この展覧会のもっとも大きな特徴は、展示された造形が、文字どおりひとつも漏れなく、すべておもしろいという点である。これほどの珠玉をそろえた展覧会は珍しい。
例えば長剣のような造形物が屹立しているのでどこかの国の武器だろうと思ったが、キャプションを見るとコンゴの鉄通貨とある。ナイジェリアの鉄通貨も展示されていたから、アフリカには両手で抱えるほど大きな通貨が流通していたのだろうかと想像が膨らむ。
民俗学的な関心だけではない。出品作品のうち頻出していた図像はキリスト像だったが、その表現形態は木彫や金属、刺繍などさまざま。同じ図像だからだろうか、細密であったり簡素であったり、表現手段のちがいも際立っておもしろい。
しかも特筆すべきは、こうした造形物がいずれも無名性にもとづいているという点である。これだけ名もない人びとによる創意工夫の数々を目の当たりにすると、有名性を志向する「作品」のなんと浅薄なことだろうと思わずにはいられない。限界芸術の魅力が古今東西にわたって脈々と受け継がれてきたことを実証する画期的な展覧会である。
ただ唯一の難点は、一部の展示の仕方と図録のすべての写真に、中途半端な「アート」の色がつけられていたこと。ボロ雑巾をあえて「絵画」のように見せたり、図録の写真をすべてホンマタカシに一任することで造形の生々しさを根こそぎ「脱色」したり、造形の迫力を伝えるはずの美術館がそれをみずから損なってしまっていたのは理解に苦しむ。そんな小細工をせずとも、造形そのものが語りかける声に耳を澄ませばよいのだ。

2012/11/14(水)(福住廉)

長者町ゑびす祭り

会期:2012/11/10~2012/11/11

長者町[愛知県]

長者町のえびす祭りを体験する。斉と公平太のゆるキャラ・アートの長者町くんのほか、あいちトリエンナーレ2010のときに制作されたKOSUGE1-16の山車によるパレードが人目をひいた。ダイナミックな回転運動、そしてゲートをくぐるときに上下する頂部。これはまさしくモバイル・アーキテクチャーだった。都市の祝祭をうたうトリエンナーレのアート作品が、町の祭りに組み込まれたことも素晴らしい。

2012/11/10(土)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013 公式グッズ・デザインコンペティション 公開プレゼンテーション+公開審査会

ナディアパーク 2階アトリウム[愛知県]

あいちトリエンナーレ公式グッズのコンペの審査を行なう。建築学生のコンペなどではアイデアが評価の対象となり、それが実現されることはまったく前提にならないが、プロダクトのコンペは、モックアップで実物が提示され、商品化が可能かどうかが審査に含まれ、だいぶ違う。議論では、どうしたらコストダウンできるかなども話題になった。結果は地元の伝統産業を生かした名古屋芸術大学のテキスタイル、扇千花研究室が最優秀となる。また名古屋建築グッズを提案した愛知淑徳大の清水研と、「→」グッズの椙山女学園の橋本研が次点に選ばれた。それぞれグッズの実現化に向けて、スタートを切ることになった。

2012/10/14(日)(五十嵐太郎)

第七回田辺銀冶根付会 爆裂お玉

会期:2012/10/13

お江戸日本橋亭[東京都]

講談師、田辺銀冶の独演会。師匠の故田辺一鶴とレディー・ガガをモチーフにした創作講談、そして「爆裂お玉」の最終回を披露したほか、伝説の紙芝居師、梅田佳声による紙芝居もあわせて上演された。
銀冶の魅力はなんといっても声である。おきゃんなキャラクターを体現する爆発的な笑い声もさることながら、声の高低によって作中の登場人物を演じ分ける振り幅の大きさがすばらしい。今回は「爆裂お玉」という痛快な悪女がおそらく性根に合っていたのだろう、これまでにないほど高い声ののびやかな広がりと、低い声の猛々しい艶っぽさが引き立っていたように見えた。
敬愛してやまないレディー・ガガを模した緑色の鬘は当人いわく「大阪のおばちゃん」のようだったが、それはともかく、このような銀冶の声の質は、まさしくガガのそれと明らかに通底していた。講談の伝統が刷新されるとすれば、それは当世風のモチーフを取り入れるだけでなく、同時に、講談そのものよって声の生々しさや美しさを私たちの文化に取り戻すことが不可欠だろう。

2012/10/13(土)(福住廉)

日本の70年代 1968-1982

会期:2012/09/15~2012/11/11

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

埼玉県立近代美術館の「日本の70年代 1968-1982」展を見る。大阪万博や寺山修司の熱気から、ビックリハウスやこの美術館の誕生まで、横断的に文化を展示したものだ。それゆえ、黒川紀章の向かいが、サディスティック・ミカ・バンド!という部屋もある。なお、美術館の公園に移築された《中銀カプセルタワー》のユニットも同時代の産物だ。

2012/10/12(金)(五十嵐太郎)

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