2021年09月15日号
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artscapeレビュー

坂田和實の40年 古道具、その行き先

2012年12月01日号

会期:2012/10/03~2012/11/25

渋谷区立松濤美術館[東京都]

古道具坂田の店主・坂田和實の展覧会。坂田が収集してきた古今東西の古道具150点あまりを一挙に展示した。古道具といって侮るなかれ。一点一点の造形は、並大抵の現代アートを蹴散らすほどの迫力がある。
野良着や質屋の包み紙、水中メガネ、ブリキの玩具。雑巾があれば伊万里の小椀もあり、仮面や聖者像もある。いずれも古色蒼然としているが、いずれも味わい深く、なおかつ美しい。この展覧会のもっとも大きな特徴は、展示された造形が、文字どおりひとつも漏れなく、すべておもしろいという点である。これほどの珠玉をそろえた展覧会は珍しい。
例えば長剣のような造形物が屹立しているのでどこかの国の武器だろうと思ったが、キャプションを見るとコンゴの鉄通貨とある。ナイジェリアの鉄通貨も展示されていたから、アフリカには両手で抱えるほど大きな通貨が流通していたのだろうかと想像が膨らむ。
民俗学的な関心だけではない。出品作品のうち頻出していた図像はキリスト像だったが、その表現形態は木彫や金属、刺繍などさまざま。同じ図像だからだろうか、細密であったり簡素であったり、表現手段のちがいも際立っておもしろい。
しかも特筆すべきは、こうした造形物がいずれも無名性にもとづいているという点である。これだけ名もない人びとによる創意工夫の数々を目の当たりにすると、有名性を志向する「作品」のなんと浅薄なことだろうと思わずにはいられない。限界芸術の魅力が古今東西にわたって脈々と受け継がれてきたことを実証する画期的な展覧会である。
ただ唯一の難点は、一部の展示の仕方と図録のすべての写真に、中途半端な「アート」の色がつけられていたこと。ボロ雑巾をあえて「絵画」のように見せたり、図録の写真をすべてホンマタカシに一任することで造形の生々しさを根こそぎ「脱色」したり、造形の迫力を伝えるはずの美術館がそれをみずから損なってしまっていたのは理解に苦しむ。そんな小細工をせずとも、造形そのものが語りかける声に耳を澄ませばよいのだ。

2012/11/14(水)(福住廉)

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