artscapeレビュー
沢渡朔「少女アリス」
2014年11月15日号
会期:2014/10/10~2014/10/26
Fm(エフマイナー)[東京都]
沢渡朔の名作『少女アリス』(河出書房新社、1973年)が「スペシャル・エディション」として河出書房新社から刊行されることになった。西武百貨店での展覧会にあわせてイギリス各地に滞在し、3週間で6×6判のフィルム300本を撮り尽くしたという撮影のテンションの高さ、堀内誠一のデザインによる端正で典雅な写真集の造本は、いまだに語り草になっている。今回の「スペシャル・エディション」は、すべてその73年の写真集に未収録のアナザーカットから選ばれた写真で構成されていて、東京・恵比寿のギャラリー、Fmで展示されているのは、その「懐かしくも新しい」写真群から新たにプリントされた作品だ。
『少女アリス』の魅力は、むろん沢渡ののびやかなカメラワークの為せる業なのだが、それ以上に主役のアリスを演じきった8歳のモデル、サマンサによるところが大きい。今回の展覧会及び写真集では、そのサマンサのもうひとつの顔が見えてきているように感じる。つまり、イノセントな天使的な存在としてのアリスではなく、明らかにどこかおぞましく、淫らでもある「ダーク・アリス」が浮上してきているのだ。たしかに「少女」という、ひらひらと漂うようなフラジャイルな存在には、光と闇の両方の顔があるように思える。その二面性が『少女アリス』の撮影の過程で引き出されてくるわけで、そのスリリングな出現のドラマには心を揺さぶられるものがある。別な見方をすれば、今回の「スペシャル・エディション」の登場で、『少女アリス』は40年の時を隔ててようやく完成したといえるのではないだろうか。
なお本展は11月13日~21日に京都のWRIGHT商會三条店二階ギャラリーに巡回する。
2014/10/10(金)(飯沢耕太郎)