artscapeレビュー

2016年11月01日号のレビュー/プレビュー

マリメッコ展

会期:2016/10/08~2016/11/27

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

北欧フィンランドを代表するアパレル企業であり、鞄、インテリア、食器なども手掛けるマリメッコ。同社の約60年にわたる歴史を、ヘルシンキのデザイン・ミュージアムが所蔵する、ファブリック約50点、ビンテージドレス約60点、デザイナーの自筆スケッチ、各時代の資料などで振り返るのが本展だ。マリメッコのファブリックは、大胆な色と柄が特徴。シンプル&モダンに徹した服飾デザインも素晴らしい。同社の創業は1951年だが、同じ50年代にクリスチャン・ディオールが発表した有名な「Aライン」と比べても、近代と現代ぐらいの違いが感じられる。もちろんマリメッコが現代だ。つまり、ファッションとしてのみならず、モダンデザイン、プロダクトとしても優れていたことが、今日の同社の成功を下支えしているのであろう。また、本展の記者発表で興味深いエピソードを聞いた。現在NHKで放映中のドラマ「べっぴんさん」のモデルとなっている神戸の子供服メーカーは、創業年がマリメッコと1年違いだという。ともに第2次世界大戦の敗戦国である日本とフィンランドで、ほぼ同時期に新たなデザインが芽吹いていたとは。その事実を知った途端、本展がとても身近なものに感じられた。

2016/10/08(土)(小吹隆文)

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柳原良平 海と船と港のギャラリー

会期:2016/08/20~2016/11/06

横浜みなと博物館[神奈川県]

今年4月1日、2015年8月17日に亡くなったイラストレーター・柳原良平(1931-2015)の油彩画、切絵、イラストレーションなど4,848点が横浜市に寄贈された。本展はその中から主に船や港に関する作品約150点を展示する企画。柳原は小学生の頃から船が好きで船の絵を描いていたという。1968年には至誠堂から『柳原良平の船の本』を出版。色紙を使った切絵からはじまり、やがて油彩、リトグラフへと表現のスタイルを拡げていった。柳原が壽屋(現・サントリー)時代に産みだしたキャラクター、アンクルトリスに代表されるように、彼が描く人物は二頭身。船は寸詰まりにデフォルメされたり、スケールが極端に強調されたりしているが、その描写が正確な知識に裏づけられたものだということも本展で知った。子供の頃に柳原良平のイラストレーションに魅力を感じたのは、描かれているものが細部に至るまで正確だったからだということにいまさらながら気がつかされた。また、柳原が描くイラストレーションで、色面の輪郭がとてもシャープなのは、カミソリで紙を切って貼る切絵の手法ゆえということも、恥ずかしながら本展で知った。大学時代に柳原が上野リチから学んだ手法がそのヒントになったのだという。[新川徳彦]

2016/10/08(土)(SYNK)

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岡山芸術交流2016

会期:2016/10/09~2016/11/27

岡山市内各所[岡山県]

岡山城、岡山県庁、林原美術館など、岡山市内中心部の8会場ほかで行なわれている大型国際展覧会「岡山芸術交流2016」。去る9月15日に珍しく大阪でも記者発表が行なわれたが、その席で強調されたのは、いま日本国内で流行っている地域アートとは一線を画したハイエンドな芸術祭を目指すことと、今回のための委嘱作品が多数あるということだった。実際に現場に出向いてみると、委嘱か否かは別にして、見応えのある作品がいくつもあった。筆者が特に気に入ったのは、岡山県天神山文化プラザで展示されているサイモン・フジワラのインスタレーションと、林原美術館で複数の作品が見られるピエール・ユイグだ。また、旧後楽館天神校舎跡地で地元の中学生や新聞社と協同した新作を発表した下道基行も印象に残った。その一方で難解な作品もいくつかあったが、主催者の心意気を評価する筆者としては、これで良いと思う。参加作家は31組。少なく見えるが、大規模なインスタレーションが多数を占めるので、むしろ適正と言える。また、会場間の距離がさほど離れていないため移動が楽で、頑張れば1日でコンプリートできるのも良いと思った。最後に、今回のアーティスティック・ディレクターを務めたのは、美術家のリアム・ギリック。彼が掲げたテーマは「開発」だが、その意図を展示品から読み取るのは、筆者の知識では難しかった。

2016/10/09(日)(小吹隆文)

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瀬戸内国際芸術祭2016 大竹伸朗《針工場》

会期:2016/10/08~2016/11/06

豊島・家浦[香川県]

第3回をむかえる瀬戸内国際芸術祭もいよいよ最後の会期、秋会期がスタートした。瀬戸内の島々ではすでにお馴染みとなった大竹伸朗が、ここ豊島でも新作を発表している。旧メリヤス工場跡を舞台に、宇和島の造船所に放置されていた漁船用の木型を逆さまに置いた作品である。全長17メートル、一見して保存状態もよく造形としても堂々とした存在感を放つそれは、実際には約30年間にわたって放置されていた廃棄物のようなもので、強度に乏しく、そのままのかたちで輸送するために内側に鉄骨を組んでFRPを塗り重ねなければならなかったという。豊島到着後は、島の人々の協力をえながら港から人力で牽引した。
大竹伸朗は1990年代に愛媛県宇和島にアトリエを構えている。瀬戸内では、直島の家プロジェクトでかつての歯科医院を作品化し、女木島では休校中の小学校でオブジェ等の作品を手がけている。いずれの作品もパワフルなコラージュで、平面ではないものの、その印象は画家(ペインター)の仕事の延長線上にあった。それらと比べると、本作はシンプルで整然としている。入り口付近を除いて、何ひとつペイントされていない。しかしいつものあの荒ぶる勢いを抑制したというよりも、芸術祭のコンセプトをそのまま具現化してみせたかのような作品で、そこには、海と島と、瀬戸内の人々のかつての営みが感じられた。[平光睦子]

2016/10/09(日)(SYNK)

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瀬戸内国際芸術祭2016《豊島八百万ラボ》

会期:2016/10/08~2016/11/06

豊島・甲生[香川県]

第3回瀬戸内国際芸術祭では豊島会場にスプツニ子!らによる民家を改修した作品、《豊島八百万ラボ》が新たに加わった。
最初の展示作品は、スプツニ子!作《運命の赤い糸をつむぐ蚕─たまきの恋》。
金属製の鳥居をくぐって入場すると、神社のそれさながらに受付ではおみくじやお守り、絵馬が販売されている。その隣の絵馬掛けコーナーでは、願い事が書かれた多くの絵馬が風に揺れてカラカラと鳴っている。建物内部は研究室と展示室に別れているが、全体でひとつのインスタレーションといった様相である。展示室に設置されたモニターには、意中の彼の心を得るために、人が恋におちる成分といわれるオキシトシンと赤く光る珊瑚の遺伝子を導入したハイブリッド蚕をつかって媚薬効果のある赤い糸を開発するという、ドラマ仕立ての短い映像作品が映し出される。作者であるスプツニ子!本人も意中の彼役で出演するというおまけ付き。「恋愛」、「神頼み」、そしてそれらとは相容れないもののような「科学」、それらがみな一本の赤い糸でいとも簡単に繋げられるのである。[平光睦子]

2016/10/09(日)(SYNK)

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2016年11月01日号の
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