artscapeレビュー

2017年10月15日号のレビュー/プレビュー

野村佐紀子「愛について あてのない旅 佇む光」

会期:2017/09/09~2017/10/22

九州産業大学美術館[福岡県]

九州産業大学美術館が企画する「卒業生─プロの世界」の第7回目として、野村佐紀子の個展が開催された。1967年、山口県下関市出身の野村は、1990年に九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、荒木経惟に師事し、1993年ごろから写真家としての個人活動を開始する。1994年に最初の写真集『裸の部屋』を自費出版で刊行。以後20冊近い写真集を出版し、数々の展覧会を開催してきた。本展では、その野村の20年以上にわたる写真家としての軌跡を、約170点の作品で辿っている。
展示は3部構成だが、第2部の「あてのない旅」は8点のみの「間奏曲」とでもいうべきパートであり、その大部分は第1部の「愛について」と第3部の「佇む光」で占められている。基本的には既刊の写真集の流れに沿って過去の作品を見せる「愛について」と、「2013年以降の新作」を展示した「佇む光」ということになるが、作風的にそれほど大きな違いがあるようには見えない。闇の粒子を身に纏ったような男性の裸体写真を中心に、ごく近い距離感で撮られた室内の光景が配置されている。カメラが外に出る時にも、視覚よりも触感を強く感じさせる被写体の捉え方は共通している。近年はモノクロームだけでなく、カラー写真も多くなってきたが、それでも画面の質感にほとんど変わりがない。老人施設で撮影された異色のポートレートのシリーズ『TAMANO』(リブロアルテ、2014)や、珍しく女性のイメージを中心に構成された『Ango』(bookshop M、2017)などが外されているということもあるが、どちらかといえば野村の作品世界の均質性、一貫性が強調されていた。それほど大きな会場ではないので、その狙いは的を射ている。だが、次はもう少し大きな会場で、より広がりのある構成の展示を見てみたいとも思った。

2017/09/16(土)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00041145.json s 10139903

渋谷自在──無限、あるいは自己の領域

会期:2017/07/29~2017/09/17

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

2005年にオープンしたトーキョーワンダーサイト(TWS)渋谷が今秋、東京都現代美術館の運営する東京都渋谷公園通りギャラリー(仮称)として生まれ変わるそうだ。ってことで、TWSの最後の企画展として大野茉莉、西原尚、潘逸舟の3人展が開かれた。西原はギャラリー内に古びたトタン板で掘建て小屋を4軒ほど建て、その周囲にも犬小屋か鳥小屋くらいの箱を設置。そのなかに鉄カブトや洗面器などを用いた手づくりの楽器を置いて、タイマーで音が出るように仕掛けた。これはいい。音の出る道具(音具)づくりなら鈴木昭男から松本秋則まで多くの先達がいるが、その音具を効果的に見せる(聞かせる)ための舞台として掘建て小屋まで建てたのは秀逸。いや舞台というより小屋自体も「楽器」の一部と見るべきか。まるで敗戦後の焼け跡の風景を思わせる。2階ではテントを建てて内部に人体の一部を連想させる工作物を吊るし、光を当てて外から影絵のように見せているのだが、これはデュシャンの《独身者の機械》を彷彿させる。渋谷区役所勤労福祉会館内に位置するTWS渋谷の展示空間を最大限に変容させた、最初で最後のすばらしいインスタレーション。
潘は映像と絵画の出品。《海で考える人》と題する映像は深さ2、3メートルほどの海中でプカプカ浮かぶ人を撮ったもので、なにをしてるのかと思ったら、タイトルどおりロダンの彫刻《考える人》のポーズをとり続けているのだ。ブロンズ彫刻とは違い、地に足をつけずに浮遊しながらなにを考えるのか。無重力状態における彫刻のあり方、考え方に再考を促す作品。

2017/09/16(土)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00040896.json s 10139914

パオラ・ピヴィ「THEY ALL LOOK THE SAME」

会期:2017/08/26~2017/11/11

ペロタン東京[東京都]

パオラ・ピヴィって最近聞いたことあるなあと思ったら、ヨコトリにカラフルなクマちゃんのぬいぐるみを出してたアーティストね。カワイイ羽毛に覆われた凶暴なホッキョクグマ。ここでも白と青の2頭のクマちゃんが宙づりになっているが、今回のメインは壁にかけられた9個の回転する車輪のほうだ。車輪はひとつずつ色もサイズもデザインも異なり、回転する向きも早さもそれぞれ違っている。さらに奇妙なのは各車輪にダチョウやキジ、キンケイなどさまざまな鳥の羽根を放射状につけてくるくる回っていること。金属製のカッチリした車輪に、フワフワ軽快な羽根。

2017/09/16(土)(村田真)

ヴィック・ムニーズ「Handmade」

会期:2017/09/14~2017/11/04

nca[東京都]

日動画廊本店と同時開催されている個展。こちらはすべて今年つくられた新作で、本店の作品をさらに発展させたもの。発展させたというのは、対象となる作品が20世紀以降の抽象絵画(実在しない)ということもあるが、それだけでなく、2次元と3次元を巧みに織り混ぜてより難易度の高いトロンプルイユに仕立て上げているからだ。例えば白いキャンバスに4本の切れ目を入れたフォンタナまがいの作品。これは図版ではまったくわからないが、ホンモノの切れ目は1本だけで、残る3本は写真、つまり写された切れ目なのだ。同様に、たくさんの色紙が貼ってあるように見える作品も、大半は写真に撮られた色紙で、実際に貼られた色紙は数枚しかない。しかもそれがじつに巧妙にできていて、顔を近づけてようやくホンモノか写真か区別がつくくらい。しょせん「だまし絵」といってしまえばおしまいだが、ここまで完成度が高いと尊敬しちゃう。

2017/09/20(水)(村田真)

Vik MUNIZ/ヴィック・ムニーズ

会期:2017/09/14~2017/09/28

日動画廊本店[東京都]

日動画廊本店にはもう何十年も入ってないが、入ってないのにいうのもなんだが、銀座の一等地に何十年も画廊を構えていられるのはともあれスゴイことだ。今回はnca(ニチドウ・コンテンポラリー・アート)と同時開催の現代美術展なので久々に入ってみた。ヴィック・ムニーズは粉や液体などで絵を描いたり、ゴミを寄せ集めて人物画を再現した写真作品で知られるが、今回は雑誌や画集を細かくちぎって貼りつけ、印象派の絵画を再現したコラージュを写真に撮ったもの。わかりにくいけど、最終的にプリントを作品としている。例えば、遠くからながめるとゴッホの《星月夜》だが、近づくと人の顔やら文字やらが現われるといった仕組み。果物を寄せ集めて人物画に仕立てるアルチンボルドのようなトロンプルイユともいえる。常連らしい中年男性は何度スタッフから説明を受けても理解できない様子。ふだんの日動画廊の作品とはずいぶん違うからね。ゴッホのほか、モネ、ルノワール、セザンヌ、ドガ、藤田嗣治などの絵画をネタにしている。特に藤田の《妻と私》は笠間日動美術館の所蔵作品を元にしたもので、3点売れていた(プリントなので複数ある)。モネの太鼓橋を描いた睡蓮の絵も2点売約済み。どれも日本にある絵を元にしているという。

2017/09/20(水)(村田真)

2017年10月15日号の
artscapeレビュー