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2023年07月01日号のレビュー/プレビュー

アートノード・ミーティング11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」

会期:2023/6/10

せんだいメディアテーク 7階スタジオa[宮城県]

アートノード・ミーティング11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」に参加した。アートノードとは、せんだいメディアテーク(SMT)のコンセプトのひとつが「端末(ターミナル)ではなく節点(ノード)である」ことにちなみ、現代のアーティストによる作品制作など、さまざまな活動を展開する、2016年から始まったプロジェクトである。地方に乱立するいわゆる芸術祭とは、一線を画す。なお、筆者はアドバイザーとして関わっているが、会場では発言せず、一聴衆に徹した。



この日のSMTはファサードが開く日で気持ちよく外とつながっていた


アートノードミーティングのアンケート結果


気がつくともう8年ということで、公開で事業を振り返る場が設けられた。みんなの橋を目標とする、川俣正の貞山堀運河沿いのプロジェクトも持続的に動いているが、芸術祭のようなピークの期間がないため、認知度は高くない。ただ、当初の目的として、人を育てることや場をつくることが含まれていたことを改めて確認し、時間がかかるのは仕方ないと感じた。

例えば、あいちトリエンナーレ2013の芸術監督を担当したとき、なぜこれを支える人や環境があるのかと考えたら、桑原知事が1950年代に県立美術館の前身、1960年代に愛知県芸を設立したことが重要だったのではないかと思う。これに触発され、ほかの美大、芸大も生まれ、半世紀かけて培われた土壌の上に、国際展を支える人のネットワークが成立しているからだ。ただ、宮城県内には残念ながらファインアートの大学がなく、仙台から一番近いのは山形の東北芸術工科大学となる。


東北リサーチとアートセンター(TRAC)で開催された「とある窓」展(2018)



地下鉄東西線国際センター駅でのKOSUGE1-16による展示「アッペトッペ=オガル・カタカナシ記念公園」(2016)



川俣正/仙台インプログレス《新浜タワー


光州ビエンナーレのメイン会場ではひっきりなしに学校参観が行なわれていたが、アートノードもこうした学校の課外教育に使ってもらうと良いのではないか。即物的には、教育系に関心のある議員の支持も得られるが、アートノードの存在が知られる回路は増やした方が良い。光州は民主化運動の地として強いアイデンティティの意識をもち、それがビエンナーレにもつながり、おそらく学生に自分の街がアートの街だという気持ちを醸成している。アートに目覚める学生は僅かかもしれないが、市がアートの場をつくっていることが、少しでも記憶に刻まれたら、それで十分ではないだろうか。

会場では、アートノードの「ワケあり雑がみ部」を手がける藤浩志から、公募の提案が寄せられた。これは注目される可能性もあるし、参加する作家が多様化するためにも、また若手を育成するためにも、ぜひやったら良いと思う。


「雑がみ部」の活動スペース



「雑がみ部」部員による展示「展示で雑がみ部」Vol.3の様子(2023/会期終了済み)



アートノード・ミーティング 11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」:https://artnode.smt.jp/event/20230502_10917/

2023/06/10(土)(五十嵐太郎)

ガウディとサグラダ・ファミリア展

会期:2023/06/13~2023/09/10

東京国立近代美術館[東京都]

ぼくが初めてサグラダ・ファミリア聖堂のことを知ったのは、大学1年の建築史の授業のときだから、ちょうど半世紀前の1973年のこと。高見堅志郎先生がスライドを見せながら「完成まであと200年はかかる」といわれ、その異貌とスケールの大きさにたまげたものだ。その授業をきっかけに、つい最近亡くなった栗田勇の「ゴシック・バロック・ガウディの空間」のサブタイトルを持つ『異貌の神々』(‎美術出版社、1967)を貪るように読んだことを思い出した(内容は忘れたが)。

初めてバルセロナを訪れたのは1985年。スライドで見たときよりずいぶん進んでいたので、あと100年もあれば建つんじゃないかと思った。2度目に見た2002年には工事が半分以上終わっている印象で、完成まであと50年くらいと聞いた気がする。徐々に完成が早まっているのだ。工事の遅れは資金難が最大の理由だから、「未完の聖堂」として知られるようになったおかげで観光収入が増え、工事も予想以上に進んだのかもしれない。そしてコロナ禍で中断したとはいえ、ガウディの没後100年の2026年には、もっとも高い中央のイエスの塔が完成する予定という。いっそこのまま工事中でいたほうがロマンチックで観光客も集まりそうだが、ぼくとしては生きているうちに完成した姿を拝めそうなので楽しみだ。

そんなガウディのサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を当てた展覧会。なんだサグラダ・ファミリアだけ? というなかれ。この聖堂は、ガウディが31歳のときから亡くなる73歳まで実に40年以上にわたって取り組んできた彼の仕事の集大成であり、その間ガウディが試みてきたさまざまな探求の成果が聖堂に採り入れられているという。だからサグラダ・ファミリアについて語ることは、ガウディの全作品について語ることに等しいのだ。

展示は「ガウディとその時代」「ガウディの創造の源泉」「サグラダ・ファミリアの軌跡」「ガウディの遺伝子」の4章立て。ガウディの特異性がよくわかるのは第2章の「創造の源泉」だ。彼の建築はほかに類を見ない独自のものだが、まったくの独創というわけではなく、さまざまなところからインスピレーションを受けていた。その源泉を「歴史」「自然」「幾何学」の3つに分けている。「歴史」とは、アルハンブラ宮殿に代表される中世スペインのイスラム建築と、そこにキリスト教建築が混淆したムデハル建築およびネオ・ムデハル建築だ。その影響は初期のカサ・ビセンス、エル・カプリッチョ(奇想館)などに顕著に表われている。

「自然」は植物などの生命のフォルム、洞窟などの大地の浸食造形、パラボラ(放物線)アーチなどの釣り合いの法則に分けられる。植物のような有機的フォルムは、同時代のアールヌーヴォーのデザインでも盛んに用いられたが、ガウディもさまざまなディテールに使っている。特にユニークなのは、聖堂内部の柱の上半分を複数に枝分かれさせて天井を支えるようにし、森のなかにいるかのような空間を現出させたこと。大地の浸食造形とは、カタルーニャの聖山モンセラー(モンセラット)やトルコのカッパドキアのような奇岩、あるいは当時ブームになった洞窟や鍾乳洞などで、グエル公園やカサ・ミラ、サグラダ・ファミリアの塔を見れば影響は一目瞭然だ。

こうした奇岩から発想した塔のフォルムはパラボラ・アーチに通じる。パラボラ・アーチは円錐を斜めに切ったときに現われる放物線の回転体で、力学的に釣り合いのとれたアーチといわれる。ガウディはこれを建築に採り入れるため、おもりを付けた紐を吊り下げて撮影し、その写真を天地逆にして理想的なアーチを得ていた。これを設計に用いたのがコローニア(コロニア)・グエル教会堂だが、未完に終わっている。最初にこの「逆さ吊り実験」の写真を見たとき、ガウディは有機的形態を表層的に用いているのではなく、力学的に理にかなった、なんなら宇宙的といってもいいくらい普遍性のある美を追求した建築家だと感銘を受けたものだ。3つ目の「幾何学」は、このパラボラ・アーチをはじめとする幾何学を重視した設計思想と考えればいい。

そして第4章ではいよいよサグラダ・ファミリアの初期の計画案から、マケット、変更された計画案、人体から型取った彫刻、ディテールの模型、燭台、ステンドグラス、記録写真、CGによる完成予定図、最新の映像まで並ぶ。意外なのは、聖堂の初代建築家はビリャールであり、ガウディは2代目であること、また、聖堂の詳細な設計図はなく、あるのは計画案だけであること、しかもその計画案も何度も更新されたこと。そのためガウディの死後は、彼の建築思想と独自に開発した技術から忖度してディテールを決定し、建設を進めてきたという。19世紀の前近代的な建て方が、そのまま2世紀を隔てて現在まで受け継がれているのだ。こりゃ100年も200年もかかるわ。


公式サイト:https://gaudi2023-24.jp/

2023/06/12(月)(村田真)

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「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展

会期:2023/03/01~2023/06/25

水戸芸術館[茨城県]

2022年末に磯崎新が亡くなったことを受けて、彼が設計した水戸芸術館で「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展が企画された。これは彼がプリツカー賞を受賞した2019年の「磯崎新 ─水戸芸術館 縁起─」展を再現しつつ、設計当時の資料などを紹介するものである。なお、筆者の訪問時の現代美術ギャラリーでは、地元の美術展や写真コンテスト入賞作品展を開催しており(こうしたタイミングで訪れたのは初めてで、かえって新鮮だった)、磯崎展は第9室(クリテリオムの会場)とエントランスホールの2階回廊が使われていた。まず資料の展示としては、当初の設計スタディ(施設の配置とアプローチ、広場、塔の造形と位置について、それぞれA、B、Cの3案を検討)、プロポーザル案、タワーのディテール、実施設計図、竣工図など、各種の図面ほか、設計の基本理念を記した文章、開館記念式典の写真、プロジェクト展(水戸市立博物館、1987)の記録、シルクスクリーンの版画、「磯崎新1960/1990 建築展」(1991)のプレスキットとして配布されたモンロー定規、関連書籍(手に取れるようカフェ・ラウンジにも著作・作品集コーナーが設けられた)などである。小規模だが、濃密な内容だった。


書の展示が開催されていた現代美術ギャラリー



回廊の資料展示(「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展より)




カフェ・ラウンジの書籍コーナー


当時の「磯崎新 ─水戸芸術館 縁起─」展は実見していないが、写真で確認する限り、今回はほぼ同じ状態で再現されたと思われる。すなわち、第9室の壁の各面に「構」「震」「移」「響」の作品を配置し、「聲」と「間」の映像を加えていた。興味深いのは、構造家の木村敏彦と設計したタワーのジョイント部の原寸大断面図や、永田音響設計が入ったコンサートホールの音の方向を示したダイアグラムなど、エンジニアリング的なデザインをアート化していること。また水戸芸術館は歴史建築の参照を散りばめており、「構」のパネルは、『磯崎新+篠山紀信 建築行脚』(全12巻/六耀社、1980-92)で訪問した世界の古建築と館の各パーツの関連性を示す。ちなみに、書籍展示のコーナーに置かれていた『水戸芸術館』(六耀社 、1999)の8~38ページの建築の各部分の写真に対する説明文は、歴史の参照を強調しながら、筆者が執筆したものである。ともあれ、磯崎にとって、水戸芸術館はつくばセンタービルとともに、ポストモダンの時代の代表作である。


「構」(「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展より)



「震」(「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展より)



実は隣の敷地には、7月にオープンする伊東豊雄による《水戸市民会館》が完成していた。プロ向けの芸術館に対し、市民に開くみんなの建築であること。また積極的に木を使い、しかも構造材としていることに、公共建築の変化が反映されている。この屋上庭園からは、シンボルタワーがよく見え、芸術館の屋根や広場も眼下に広がり、新しい視点が獲得できる。


《水戸市民会館》(2023)


水戸市民会館の屋上庭園から水戸芸術館とタワーを見る



磯崎新 ─水戸芸術館を創る─:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5235.html

2023/06/14(水)(五十嵐太郎)

古代メキシコ ─マヤ、アステカ、テオティワカン

会期:2023/06/16~2023/09/03

東京国立博物館[東京都]

日本および東洋の古美術を専門とする東博で「古代メキシコ」展というのも若干違和感があるが、さりとて民博や歴博でやるのも少し違うし(第一不便で人が入らない)、同じ上野でも都美や科博でもないし。この規模の大規模な文明展を開くにはやっぱり東博しかないのか。そういえば、同じく滅びた文明である「ポンペイ」展も去年やったしな。

「古代メキシコ」展は、16世紀にスペイン軍によって滅ぼされるまで、メキシコを核とする中米(メソアメリカ)に栄えたマヤ、アステカ、テオティワカンの3つの文明を紹介するもの。中南米の美術はこれまで断片的には見たことがあるけど、こうしてまとめて見るのは初めてかもしれない。アメリカ大陸には13,000年以上前にユーラシアから人類が渡って以来、16世紀にスペイン人に征服されるまで旧大陸とはまったく交流がなく暮らしていたというから、いったいわれわれとどれだけ異なった文明・文化を築き上げてきたのか興味深いところ。だが、期待に反してというか、相違点より相似点のほうが多かったことに驚いた。

たとえば、墳墓としてピラミッドを築いたこと。新大陸に渡る13,000年以上前からすでに埋葬という風習は共有していただろうけど、それが数千年前から新旧の両大陸で申し合わせたように石をピラミッド状に積み上げ、内部に身の回りのものとともに死体を安置するようになったのだから、不思議といえば不思議。ほかにも、天体の運行から暦を発明したり、ヒエログリフのような絵文字をつくったり、農耕、都市国家、土器、神像、装飾品、浮彫彫刻、碑文、香炉、楽器など、かたちこそ違えど隔絶された旧大陸とほぼ同じものをつくり出していたのだ。ということは、こうした文化のDNAはすでに13,000年以上前から人類に備わっていたのか、それとも進化のシンクロニシティ(共時性)ってやつだろうか。

旧大陸にあって新大陸にないものの代表は、銅や鉄などの鋳造技術だろう。その違いの理由はおそらく資源や人口の差、文明間の交流の有無に求められる。新大陸は孤立していたのだ。逆に新大陸にあって旧大陸にないのは、生贄儀礼かもしれない。神々の加護を得るため人を生贄に捧げる風習は旧大陸になかったわけではないが、それが組織的に大規模に行なわれたのはメソアメリカならではのこと。その生贄を確保するために戦いが行なわれていたというから、本末転倒というものだろう。これが新大陸から来た征服者には野蛮な風習に映り、征服すべき人種と考えられたのかもしれない。ともあれ、今回出品される物品の多くはこうした生贄儀礼に関わりのある奉納品だという。まさに「生贄文化」。

出品点数は計141点。数だけいえば多いように感じるが、小さな宝飾品1点1点も数えてだから、会場の広さに比すればむしろガラガラに近い。それを補っているのが展示品の背景に置かれた遺跡の写真群だ。なるほど、これなら発掘現場の雰囲気も伝わるし、一石二鳥ってわけ。最近多いね、こういうの。



展示風景




展示風景



公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2565

2023/06/15(木)(村田真)

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「架空の都市の創りかた」(「アニメ背景美術に描かれた都市」展オープニングフォーラム)

会期:2023/06/16

谷口吉郎・吉生記念金沢建築館[石川県]

筆者が監修で関わった「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、1980年代末から2000年代初頭まで、すなわち手描きしかなかった頃からCGが導入される黎明期までのSF系アニメの6作品における建築や都市の表現に注目した企画である。内覧会の後に開催されたオープニングフォーラム「架空の都市の創りかた」では、ゲストに2名の美術監督を招き、本展を企画したシュテファン・リーケレスと明貫紘子の両氏がコーディネイターを務めた。通常、こうしたイベントは登壇者が喋った後、ほとんど質問が出ないのだが、早々と質問の時間に切り換えたところ、参加者からの挙手が絶えない神回となり、まさに公開討論会としての「フォーラム」というべき場が出現した。同世代の木村真二(1962年生まれ。『鉄コン筋クリート』[2006]や『スチームボーイ』[2004]の美術監督。『AKIRA』[1988]ではスタッフとして背景を担当)と草森秀一(1961年生まれ。『メトロポリス』[2001]や『イノセンス』[2004]の美術監督。『機動警察パトレイバー2 the Movie』[1993]や『GHOST IN THE SHELL』[1995]ではスタッフとして背景を担当)の2人が喋るのは貴重な機会であり、県外から来た参加者もいつもより多く、熱心に的確な質問を投げかけていた。



内覧会の様子。シュテファン(右)、明貫さん(左)。背景は草森による『メトロポリス』の展示




木村真二による『鉄コン筋クリート』背景




『AKIRA』の冒頭シーンの背景。右は美術監督の本棚




『パトレイバー2』のパート。小倉宏昌による背景、都市攻略マップ


二人はともに東京デザイナー学院で学んだが、互いの存在を知るのは仕事を始めてからだという。木村は小林プロダクションに入社し(今回の展覧会の作画者では、ここの出身者が多い)、草森は『エイリアン』(1979)や『ブレードランナー』(1982)を見て、H・R・ギーガーやシド・ミードの影響を受けた。そして「背景美術は原作者が喜ぶものとすべき」といった話、あるいは背景が目立つべきかどうか、画面に出ない部分も描くのか、CGの時代に背景画はどうなるか、などの議論や質疑が続く。

個人的に印象に残ったのは、写真ではわからないが、オリジナルの背景画を見ると、どのような手順で描かれたかが想像できると木村が述べたこと、また草森がザハ・ハディドの競技場は建設すべきだったとコメントしたことである。ちなみに、彼は電線地中化にも疑義を唱えていた。草森は、オットー・ワグナーやフランク・ロイド・ライトにも触れたことからも、今回の展示で紹介された美術監督のなかでは一番建築が好きで、妄想度が高いように思われた。一方、生活感込みの都市表現は、木村が得意としている。「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、異なるプロダクションによる複数の作品をまとめて紹介したことで、こうした美術監督の画風の違いが確認できる。



『GHOST IN THE SHELL』のパート(草森の絵を数点含む)




草森秀一所蔵の建築本




会場中央床の「描かれた都市の年表」



アニメ背景美術に描かれた都市

会期:2023年06月17日(土)~2023年11月19日(日)
会場:谷口吉郎・吉生記念金沢建築館 (石川県金沢市寺町5-1-18)

2023/06/16(金)(五十嵐太郎)

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2023年07月01日号の
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