artscapeレビュー

2024年02月01日号のレビュー/プレビュー

福岡の建築

[福岡県]

約2年ぶりに博多を訪れた。《福岡大名ガーデンシティ》(2023)は、都心の大型再開発だが、高層棟の足元が二つに割れたゲートのような空間をくぐると、旧大名小学校の校庭が広がる。リノベーションされた校舎はスタートアップの場に変えられており、とても雰囲気が良かった。やはり、昨年オープンした《麻布台ヒルズ》、《虎ノ門ヒルズ ステーションタワー》、《東急歌舞伎町タワー》など、地価の高い東京の再開発よりも、全体として空間に余裕が感じられる。


《福岡大名ガーデンシティ》(2023)

30年経っても、ど迫力の《アクロス福岡》(1995)のそばの西中洲エリアに、yHa architects(平瀬有人+平瀬祐子)による公園のPark-PFI(公募設置管理制度)事業、地形を延長したような2棟の小さな飲食施設《ハレノガーデン》(2019)が建つ。これらの建築が引き立てるのは、奥の《旧福岡県公会堂貴賓館》(1910)である。これも山形の《文翔館》(1916)と同様、共進会に関わる建築だった。1910年の九州沖縄八県連合共進会に際して来賓接待所としてつくられ、山形出身の三條栄三郎が設計している。もっとも、気になったのは、説明文で「フレンチ・ルネサンス」のラベルを貼ってしまうことで、デザインをわかった気にさせていること(ちなみに、解説の映像ではイタリアのオペラを流していた)。なるほど、急勾配の屋根の窓や造形などはフランス風だが、それらがすべてではない。筆者が文翔館でも試みたように、もっと精緻に外観や各部屋の差異に関する分析が可能であり、意匠を奥深く楽しむことができるはずだ。


《アクロス福岡》(1995)


左から、yHa architects(平瀬有人+平瀬祐子)設計《ハレノガーデン》(2019)、《旧福岡県公会堂貴賓館》(1910)


《旧福岡県公会堂貴賓館》内部、貴賓室の様子


太宰府は十数年ぶりだろうか。斜めに小さい木を組んで構造とインテリアを兼ねる隈研吾のスターバックス(2011)は、インスタ映えする建築として有名であり、朝から海外からの観光客で賑わっていた。


隈研吾設計《スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店》(2011)


今回の目的は、藤本壮介による屋根の植栽が盛り盛りになった《天満宮仮殿》(2023)である。彼らしいユーモアと大胆さに溢れ、期間限定ながら、これもフォトジェニックな建築だった。藤本の初期作品は平面の構成が特徴だったが、ブダペストの音楽の家や万博の木造リングなど、近作は屋根がキャラ立ちする。ちなみに、太宰府天満宮の各所には、境内美術館として現代アートがあちこちに散りばめられ、それらを探して歩くのも楽しい。ライアン・ガンダーやサイモン・フジワラらの作品が見逃すような場所にそっと置かれ、風景にまぎれている。以前、太宰府のアートプログラムでも、春木麻衣子やホンマタカシが参加しており、TARO NASUギャラリーの作家で固めているようだ。


藤本壮介設計《天満宮仮殿》(2023)


「境内美術館」として太宰府の敷地内に展示されている作品の一部。左から、サイモン・フジワラ《時間について考える》(2013)、ライアン・ガンダー《この空気のように》(2011)

2024/01/20(土)(五十嵐太郎)

カタログ&ブックス | 2024年2月1日号[テーマ:みちのくを旅する/暮らす人と、祈りのメディアに思いを馳せる5冊]

古くからみちのく(北東北)の村々で親しまれてきた、素朴で味わいある風貌の民間仏たち。それらに焦点を当てた「みちのく いとしい仏たち」展(東京ステーションギャラリーで2024年2月12日まで開催)にちなみ、東北を旅した僧や学者たちの息遣いと、庶民の祈りの拠り所である仏像・彫刻という存在の不思議を感じる5冊を選びました。

※本記事の選書は「hontoブックツリー」でもご覧いただけます。
※紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。
協力:東京ステーションギャラリー


今月のテーマ:
みちのくを旅する/暮らす人と、祈りのメディアに思いを馳せる5冊

1冊目:円空仏

作:円空
発行:イマジン
発売日:2015年3月5日
サイズ:27cm

Point

江戸時代前期の僧、円空作の《観音菩薩坐像》(正法院蔵)は本展の見どころのひとつですが、この写真集では彼が日本各地を巡るなかで残していった「円空仏」のもつ豊かなバリエーションに驚嘆。木肌に落ちる影や、大胆に残されたノミ跡から生まれる絶妙な表情など、円空仏が時代を越えて愛される理由が伝わってきます。


2冊目:菅江真澄図絵の旅

著者:菅江真澄
編・解説:石井正己
発行:KADOKAWA
発売日:2023年1月24日
サイズ:15cm、350ページ

Point

東北や北海道を訪ね歩いた漂泊の国学者、菅江真澄(1754-1829)。旅先で出会う七夕・なまはげなどの風習や神事、食といった庶民の生活風景は日記や図絵として数多く精緻に描かれており、解説の添えられた本書では真澄自身の驚きも随所から感じ取れます。当時の人々の暮らしと信仰の背景をもっと知りたい方へ。


3冊目:辺境を歩いた人々

著者:宮本常一
発行:河出書房新社
発売日:2018年6月6日
サイズ:15cm、287ページ

Point

民俗学者の宮本常一(1907-81)の目線から、江戸後期〜明治時代に日本各地を旅したフィールドワークの先達たちの生き様を、オムニバス形式で読み解く一冊。菅江真澄もそのひとりとして1章分が割かれており、円空仏に出会った際のエピソードにも触れられています。平易で親しみの湧く語りかけるような文体も魅力。



4冊目:壊れても仏像 文化財修復のはなし

著者:飯泉太子宗
発行:白水社
発売日:2013年10月25日
サイズ:19cm、229ページ

Point

仏像修復の専門家として、数えきれないほどの仏像を間近で見て触れてきた著者によるエッセイ。仏像のもつ魂の在り処にまつわる話から、小さな集落の消えゆく寺にある仏像のゆくえや保存、仏像の値段の話など、一つひとつがニッチでありながらも興味津々なエピソードばかり。時折挟まれる著者によるイラストも愛嬌たっぷり。



5冊目:わからない彫刻 つくる編(彫刻の教科書)

編集:冨井大裕、藤井匡、山本一弥
著者:冨井大裕、伊藤誠、桑名紗衣子、櫻井かえで、棚田康司、戸田裕介、長谷川さち、原一史、袴田京太朗、高柳恵里、AKI INOMATA、多和圭三、藤井匡、山本一弥、松本隆、黒川弘毅、細井篤
発行:武蔵野美術大学出版局
発売日:2023年4月20日
サイズ:21cm、287ページ

Point

自らの手で彫ったり型を取ったり。「彫刻」とはそもそもどんなメディアなのか? それを「作品」たらしめるものは? 武蔵野美大で彫刻を教える人々による制作ハウツー本である一方で、素朴な疑問に立ち返り交わされる談義が面白い一冊。民間仏も含め、古来から人々の間で根付いてきた彫刻という存在の不思議に出会えます。







みちのく いとしい仏たち

会期:2023年12月2日(土)~2024年2月12日(月)
会場:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202312_michinoku.html

[展覧会図録]
「みちのく いとしい仏たち」公式図録

発行:NHKプロモーション
発売日:2023年
サイズ:A4判変型、180ページ

◎東京ステーションギャラリーミュージアムショップにて販売中。

2024/02/01(木)(artscape編集部)

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