2018年07月15日号
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artscapeレビュー

ガレの庭──花々と声なきものたちの言葉

2016年03月01日号

会期:2016/01/16~2016/04/10

東京都庭園美術館[東京都]

19世紀末のヨーロッパを彩った装飾様式であるアール・ヌーボーの立役者の一人、エミール・ガレ(1846-1904)は、植物学に情熱を傾けた人物でもある。自邸に設けた広大な庭に3,000種におよぶ植物を育て、植物学と園芸に関する論文を40本以上も発表し、1877年に創設されたナンシー中央園芸協会の創設者のひとりで、事務局長を務めたのちに副会長に就任し、科学者たちとも交流を持っていた。本展はそうしたガレの創造の源泉としての庭、すなわちガレが作品のモチーフとした植物や花、そして虫たちに焦点を当てた企画。北澤美術館のコレクションを中心に、ガラス作品ばかりではなく陶器や家具もあり、またオルセー美術館からは作品のデザイン画が出品されている。アール・ヌーボーの美術というと流れるような曲線を用いた様式化された図案をイメージするが、こと植物モチーフを見るかぎり、ガレの作品は意外なほどその様態を忠実に描き出している。
 2014年11月のリニューアル・オープン以来、東京都庭園美術館本館の展示構成には空間インスタレーションの趣を強く感じる。本展もまた外光あふれる展示室に、邸宅の所有者がコレクションを飾っているかのようにガラス作品が配されている。本館入り口で渡される二つ折りの紙は1904年に白血病で亡くなったエミール・ガレの未亡人アンリエットが来館者に宛てたメッセージ(内容はフィクション)。つまり本館の建物をガレの自邸、窓の外に広がる庭園を「ガレの庭」に見立てているのだ。
 とはいうものの、本館の建物は1933年に建てられたアール・デコ様式の館である。ここがガレが亡くなって約30年後の空間であることを考えると、この建物の所有者だった朝香宮夫妻の父母あるいは祖父母の時代のコレクションが本館展示室に並んでいると見立てることもできよう。また、アール・デコの空間にアール・ヌーボーの作品が展示されたことで、両者の様式の特徴、相違がよくわかる点はこの展示空間の効用だと思う。
 なお今夏にはサントリー美術館でもガレの展覧会が開催される(生誕170周年──エミール・ガレ、2016/6/29~8/28)。日本人は何故にかくもガレの作品を好むのか。それまでに考えておきたい。[新川徳彦]

2016/02/25(木)(SYNK)

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