2017年09月15日号
次回10月2日更新予定

artscapeレビュー

2017年09月01日号のレビュー/プレビュー

遠藤利克展─聖性の考古学

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会期:2017/07/15~2017/08/31

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

美術館の個展なのに、出品はわずか12点。でも作品の総重量でいえばこれほど重い個展もないだろう。いや物理的に重いだけでなく、見たあとこれほどずっしりと重く感じる個展も少ない。作品の大半は木の彫刻で、表面が焼かれて黒く焦げている。形態は大きく分けると舟のかたち、円筒形またはドーナツ型、箱型などだ。円筒形といっても、例えば《空洞説(ドラム状の)─2013》は高さが2メートル以上あるので内部をのぞくことはできず、中央がやや膨らんだ黒い壁の周囲を回るだけ。圧巻は、薄暗い部屋に12個の巨大な円筒を円形に並べた《無題》。並べ方はストーンヘンジを、12という数は時計を思い出させ、時間とか永遠を想起させる。遠藤は火や水といったエレメンタルな要素を用いて、モダンアートで切り捨てられた物語性や神話的思考を甦らせたといわれるが、それと同時に、もの派以上にモノそのものに語らせることのできる作家だと思う。
今回は水を使った作品も2点出品しているが、そのうちの《Trieb─振動2017》は、手前から鏡、水の入った壷を2個並べ、奥に鉄の壁を立てている。壁に近づくとなにかモワッと圧力を感じた。おそらく壁の向こうに大量の水がたたえられているに違いない。これまで遠藤は何度か土中に大量の水を蓄えるインスタレーションを発表し、水の気配を感じてほしいみたいなことを述べていたが、ぼくはいままでまったく気配を感じることができなかった。ところが今回、初めて「圧」を感じることができた。なぜか一歩前進したような安心感を覚えると同時に、そこに立ってることが恐ろしく感じたりもした。

2017/08/09(水)(村田真)

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第6回新鋭作家展 影⇄光

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会期:2017/07/15~2017/08/31

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

アトリアが主催する公募展「新鋭作家展」は、作品プランとファイルによる1次審査と、作家のプレゼンテーションによる2次審査が行なわれるが、ユニークなのは制作にあたってテーマや素材を川口市に取材したり、ワークショップや協働制作など住人との交流を推奨していること。いわば「サイトスペシフィック」で「ソーシャリー・エンゲイジド」な作品が求められているのだ。しかも選ばれてから作品発表まで1年近く制作期間を設けるなど、とても丁寧につくっている。なんでそんなこと知ってるかというと、今回ぼくも審査に加わったからだ。で、選ばれたアーティストは佐藤史治+原口寛子と金沢寿美の2組。タイトルの「影⇄光」は、偶然ながら両者とも光と影(闇)をモチーフにしていたのでつけられたという。
佐藤+原口は、川口市の妖しげな夜のネオンを背景に影絵で遊ぶ映像を、大小10台ほどのモニターやプロジェクターを使ってインスタレーション。川口の街の表情を採り入れつつ視覚的にも楽しめるため、プレゼンでは一番人気だったが、映像の見せ方や展示空間の使い方をもう少し工夫すればもっと楽しくなったと思う。それに対して金沢は、新聞紙を鉛筆で塗りつぶして宇宙を描いていくという地味ながら壮大な計画。100枚を超す新聞紙(見開き)をつなげて、10Bの濃い鉛筆でところどころ白い点(星)を残しつつ真っ黒に塗りつぶし、高さ5メートルほどある壁2面を覆う宇宙図を完成させてしまった。星や星座を表わす白いスポットに、新聞の見出しの「トランプ」とか「難民」といった時事的なキーワードや、広告の絵柄を入れ込むという技も見せている。その根気強さ(執念というべきか)には圧倒される。これはやはり経験の違いか。

2017/08/09(水)(村田真)

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AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

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会期:2017/07/08~2017/10/01

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

携帯電話などの電子機器から家電、家具、インテリアまで、深澤直人がこれまでにデザインしてきた多彩な仕事を紹介する展覧会。展覧会タイトルの「ambient」を辞書で引くと「周囲の、環境の」という訳が出る。この「ambient」を、深澤は「ものとものの間にある空気」と説明する。そこで思い出したのは、2009年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された深澤直人の展覧会「THE OUTLINE 見えていない輪郭」だ。深澤直人のプロダクトと藤井保による写真で構成された展覧会が提示していたのは、プロダクトそのものではなく、プロダクトとその周囲との関係によって現われる「輪郭」だった。写真は当然静的なものだったが、照明を入れた乳白色アクリルの上に展示されたプロダクトの輪郭は、それを見る人の視線の移動によって絶え間なく変化する。平面図には現われないかたち、視線の移動によってシームレスに変化する輪郭の美しさを見せる展覧会だった。そして今回の展覧会は「ambient」。「周囲」が意味するものは、「輪郭」が示す「線」ではなく「空間」あるいは「空気」。その「空気」を見せるために、展示室はキッチン、ダイニング、リビング、浴室などの居住空間に見立てて造作され、そこに深澤がこれまでに手がけたプロダクトが配されている。観覧者はケースに展示されたプロダクトを単体で鑑賞するのではなく、モデルルームのような室内に置かれた作品の周りをめぐり、空間とプロダクトの関係性が生み出す「空気」を体感することになる仕掛けだ。
そのような生活空間一式が深澤の仕事のみで構成できていることはその仕事の多彩さを語っており、またメーカーがさまざまであるにも関わらず、価格帯もさまざまであるにも関わらず、そこには一貫したスタイルを見ることができる。しかしその一貫性は、アーティストの作品スタイルに見られるそれではなく、デザイン思想によって生み出されるもの。深澤のデザインはしばしば「アノニマス(無名の)」と呼ばれる。たとえば、無印良品の壁掛式CDプレーヤー(1999)やパナソニックのドライヤー(2006)は、デザインに詳しい者ならば深澤直人の仕事と知っているが、メーカーは深澤の名前を出していないので、この製品のユーザーのどれほどがそのことを知っているだろうか。筆者はこの夏、無印良品の店頭で新しいスーツケースを試してみて、シンプルでとても使い勝手が良く手頃な価格の製品という印象を持ったのだが、本展を見てはじめてそれが深澤デザインだということを知った。消費者は、深澤直人のプロダクトをデザイナーの名前ではなく、いいデザイン、しっくりくるデザイン、使いやすいデザインという視点で手にとるのだ。そしてメーカーが深澤に期待していることもまた、スター・デザイナーのブランドで売るのではなく、造形的な差別化ではなく、触れたとき、使ったときに違いが分かるデザインということなのだろう。総数100点以上のプロダクトが紹介されている展示空間は、デザイン関係者のみならず、ふつうの生活者にとっても、「よいデザインとは何か」という問いに対するひとつの指針、デザインが場にもたらす「空気」の存在を教えてくれる。[新川徳彦]


会場風景

2017/08/15(火)(SYNK)

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美術館ワンダーランド2017 イロ・モノノ ハコニワ

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会期:2017/07/08~2017/09/01

安曇野市豊科近代美術館[長野県]

再び安曇野へ行ったついでに、若手作家の企画展が開かれている豊科近代美術館に寄ってみた。美術館は一見ロマネスク風の瀟洒な建物に見えるが、中に入ってみると意外と安普請だったりする。1階は高田博厚と宮芳平の常設展示室で、2階が企画展示室。2階は中庭を囲むようにテラスがあり(ただし現在は立ち入り禁止)、テラスを囲むように展示室があり、展示室を囲むように回廊があり、回廊の外側にも展示室があるという入れ子状の構造で、外見ともどもヨーロッパの修道院を思い出させないでもない。ひとつだけ離れに大展示室があるほか、部屋は小さく分かれているため、今回のような個展の集合体としての企画展には向いているが、テーマ展には使いづらそうだ。
さて「美術館ワンダーランド」展は、80-90年代生まれの若手アーティスト6人による展示だが、どういう基準で選んだのか、カタログはつくってないようだし、会場にもチラシにも展覧会の趣旨を書いた文章は見かけなかったのでよくわからない。地方美術館の場合たいてい地元作家が選ばれるものだが、長野県出身は2人しか入ってないので特に優遇されてるわけではなさそうだ。そこでヒントを与えてくれるのが、サブタイトルの「イロ・モノノハコニワ」だが、漢字に返還すると「色・物の箱庭」となり、勝手に解釈すれば、色彩や物体の受け皿としての絵画・彫刻となろうか。これもなにか語っているようでなにも語っていないに等しい。ともあれ出品作家で知っているのは水戸部七絵と齋藤春佳のふたりだけで、作品もこのふたりが群を抜く。特に絵画と映像を出している齋藤は展示に工夫を凝らしていて、コーナーに台座を置いて0号の極小絵画を立て掛けたインスタレーションは、目立たないだけに心をくすぐられた。

2017/08/15(火)(村田真)

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第11回 shiseido art egg:菅亮平展〈インスタレーション〉

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会期:2017/07/28~2017/08/20

資生堂ギャラリー[東京都]

ギャラリーを入った正面のいちばん大きな壁面に、真っ白くて作品のない(でもベンチはある)展示室を右へ左へ正面へと次々通過していく映像《エンドレス・ホワイトキューブ》が映し出されている。映像内の展示室は実物ではないし、ミニチュアかとも思ったがそうでもなさそうだし、たぶん資生堂ギャラリー(の大きいほう)をモデルにCGで作成したものだろう。対面の壁には縦横それぞれ70-80個ずつ正方形のマス目が書かれた4枚の《マップ》が掛けられている。なにかと思ってよく見ると、各マスの天地左右のいずれかの辺またはすべての辺に切れ目があり、これを出入口と見立ててマス目を展示室と見なせば、超巨大美術館または無限美術館の(部分的な)平面図であることが理解できる。白くて正方形の展示室が無限に連なるホワイトキューブ地獄、といってもいい。映像作品はこの無限の展示室を巡っていたのだ。
奥のギャラリーには白いプリントが5枚。よく見ると画面内側にもうひとつ白い矩形が浮かび上がり、いや浮かび上がるというより、パースがかかっているので奥に引っ込んでいるように見え、ホワイトキューブの壁を表象したものであることがわかる。これを壁にうがたれたニッチ(壁龕)または陳列棚と見ることも可能だ。タイトルは個展名と同じく《イン・ザ・ウォール》。映像ともどもホワイトキューブの壁の向こうに延々と展示室が連なる幻想を誘発させる優品だ。

2017/08/16(水)(村田真)

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