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冬のぬくもり、エコ暖房──湯たんぽ

2011年12月01日号

会期:2011/010/30~2011/12/18

大田区立郷土博物館2階展示室[東京都]

夏に引き続いて、この冬も節電が求められている。夏場であれば、冷房を使わない、温度を高めに設定するなど、節電の手段もわかりやすかったが、冬場はどうであろうか。巷間では秋に入ってから、旧式の灯油ストーブが良く売れているという。天面にはヤカンや鍋を置くこともできて、暖房と同時に調理に必要なエネルギーも節約できる。そして大幅に売れ行きが伸びているもうひとつの商品が湯たんぽなのだそうだ。国内における2010年の湯たんぽ生産量は94万個。ところが今年は東日本大震災以後、4月から6月までのあいだにすでに70万個が生産されており、昨年の倍以上の湯たんぽを生産しているメーカーもあるという(『朝日新聞』2011年8月19日朝刊)。
 というわけで、本展はたいへんタイムリーな企画である。展示品には日本の湯たんぽばかりではなく、中国、欧米のものもある。金属製のものもあれば、陶製、プラスチック製、ゴム製まである。私は陶製の湯たんぽに戦時中の金属代用品とのイメージを抱いていたが、歴史的には陶製の普及が先行し、従来より砲弾型、かまぼこ型の製品がつくられていたという。陶製湯たんぽは現在でも岐阜県・多治見でつくられており、2007年頃から原油高の影響もあって需要が伸び、また遠赤外線効果があることもあって、近年再評価されているのだそうだ。湯たんぽといえば、金属製、楕円形で波型のものが代表的な形であろう。今回の企画に湯たんぽの歴史に関する考察とコレクションとを提供している濱中進氏によれば、そもそもこの型の起源は大阪の浅井寛一氏が考案した「浅井式湯婆」(大正3年実用新案出願、大正4年登録)なのだという。トタンという薄い鋼板を用いつつ強度を保つために波型が付けられたのである。それ以前の金属製湯たんぽは、陶製と同様のかまぼこ型が主流であったものが、金属製波型の製品が普及してからは、今度は陶製湯たんぽが、構造上の問題がないにもかかわらず金属製湯たんぽの形状を模倣することになる。デザインの変遷におけるこのプロセスはとても興味深い。
 ゴム製の湯たんぽについて、濱中氏はアメリカの通販会社モンゴメリー・ウォード社やシアーズ・ローバック社のカタログまで調査しており、1895(明治28)年のカタログにはすでに掲載されていることを突き止めている。ゴム製湯たんぽは水枕と似ているが、氷を入れる必要がないので水枕よりも口が狭く、口栓がネジ式という違いがある。ちなみに湯たんぽを英語では「hot water bottle」という。調べてみると、日本の新聞でも1927年にはダンロップ製湯たんぽの広告を見ることができる(『読売新聞』1927年10月7日)。ただし、翌1928年の同紙記事「湯たんぽ──値段特質調べ」(同、1928年11月15日)には、金属製と陶器製のみが取り上げられていることからすると、ゴム製は一般的ではなかったのかも知れない。
 展示にも図録にも、ほとんどの場合年代が示されていないのが残念であるが、おそらく特定が困難なものが多いのであろう。それでも、フルカラー120ページの図録は湯たんぽ研究本として本邦唯一無二のもの。湯たんぽ愛好家ならばぜひとも入手されたい。[新川徳彦]

2011/11/20(日)(SYNK)

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