artscapeレビュー
熊澤未来子 展
2011年12月01日号
会期:2011/10/03~2011/11/10
第一生命南ギャラリー[東京都]
精緻でありながらダイナミックな鉛筆画を描く熊澤未来子の個展。過去作と新作をあわせて8点が発表された。重力から解き放たれたような浮遊感が特徴だが、新作《不安定な生活》では新たな展開を見せていた。描かれているのは、天高く伸びる超高層住宅。外壁が随所で外されているため、部屋の様子があらわになっており、しかも魚眼の構図によって周囲の低い建物が描かれているため、この建物が尋常ではない高度に達していることがわかる。超高層住宅といえば、ある種のセレブリティーの象徴でもあるが、熊澤が描き出しているのは、あくまでも庶民の暮らしだ。畳に敷かれた布団や洗い物がたまった台所、ちゃぶ台にコタツ、そして洗濯竿。こうした記号が私たち庶民の暮らしを過不足なく表わしていることは間違いないが、それらを垂直方向に果てしなく伸ばした空想的な絵には、私たちの潜在的な不安が託されているように思われた。震災以後、津波の恐怖によって高層住宅を求める一方、地震の恐怖がそれを打ち消してしまうダブル・バインドが私たちの心にこびりついているからだ。熊澤の鉛筆画は、当人が意識しているかどうかは別として、この時代を物語る年代記になりうるのではないだろうか。
2011/11/02(水)(福住廉)