artscapeレビュー
いけばな雑司が谷2011
2011年12月01日号
会期:2011/11/17~2011/11/20
旧高田小学校[東京都]
鬼子母神にほど近い廃校で催された生け花の展覧会。「生け花」というと格式高い伝統芸術の印象が根強いが、本展で発表されたのは型破りな生け花ばかり。流派の異なる17人の華道家/作家たちが、教室や廊下などで作品を展示した。教室の一面にススキの穂を渦巻状に立ち並べたり(太田光)、間伐材を極薄にスライスした素材「かなば」を縦横無尽に張り巡らせたり(日向洋一)、広い空間に決して見劣りしない作品が多い。いまでは廃校を使ったアートイベントは珍しくないが、これほどまでに空間の容量と作品のスケール感が調和した展覧会は決して多くはないだろう。なかでも抜群だったのが、上野雄次。乗用車の屋根に木の枝を組み合わせた巨大なオブジェを設置し、都内各所の繁華街を激走した。会場には、その様子を記録した映像が流されていたが、車高をも上回る大きなオブジェが街を水平移動していく姿は異様で、街の人びとから大きな注目を集めていた。ただし、この作品は非日常的な出来事によって日常を異化するパフォーマンスにすぎないわけではない。映像をよく見ると、木の枝のあいまに植物の葉が生けられているのがわかるから、これはやはり正真正銘の「生け花」である。巨大な死(木の枝)に包まれながら疾走する、わずかな生。生を美しく死に送り届けることが生け花の本質だとすれば、上野はそれを花器から解き放ち、私たちの都市生活の只中を走らせることで、それを反転して見せた。死から生を強引に導き出そうとするという点で、上野雄次の表現は「生け花」というより、まさしく「はないけ」なのだ。
2011/11/18(金)(福住廉)