artscapeレビュー
吉田重信 展「心ノ虹」
2012年07月01日号
会期:2012/06/02~2012/06/16
Gallery Camellia[東京都]
決して広くはない会場の扉を開けると、床一面が小さな靴でびっしりと埋め尽くされていた。サイズから察するに、おそらく子どもたちが履き古した靴なのだろう。窓ガラスが赤く加工されているため、不穏な空気感が漂っている。おびただしい靴がすべてこちらを向いていたこと、そして空間全体に立ち込めた靴の匂いが、ただならぬ気配によりいっそう拍車をかけていたのだろう。放射能の危機に晒されている子どもたちの姿をおのずと連想してしまうが、それはあくまでも鑑賞者の主観的な判断だとしても、いずれにせよ強く、烈しく、そして痛々しく、鑑賞者の心に訴えかけてくる作品であることはまちがいない。このような情動性は、かつてであれば回避するべき要素だったのかもしれないが、東日本大震災以後の想像力をたくましくして生きざるをえない私たちにとって、それが想像力に効果的に働きかけるという点で、むしろ必要不可欠なアートのひとつなのではないだろうか。
2012/06/14(木)(福住廉)