2019年12月01日号
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artscapeレビュー

ダンス×文学シリーズvol.2 きざはし/それから六千五百年地球はぐっすり寝るだろう

2018年03月15日号

会期:2018/02/17

神戸文化ホール[兵庫県]

京都を拠点とするダンスカンパニー、Monochrome Circusの代表作『きざはし』と、公募ワークショップの参加者と共につくり上げた『それから六千五百年地球はぐっすり寝るだろう』のダブルビル公演。

前者の『きざはし』は、Monochrome Circusの坂本公成と森裕子による男女デュオ作品。「正方形のテーブル」の上/下という限られた空間の中、直接的なコンタクトを介さない2つの身体の間に張りつめた緊張感、研ぎ澄まされた美しさ、そして空間を音響的に拡張/切り裂く「音」により、世界の構造を極限まで凝縮してみせたようなダンスが繰り広げられる。テーブルの上には女が立ち、下には男が身をかがめて座る。テーブル上には、銀に光るナイフが足の踏み場もないほど置かれ、女はおそるおそる裸足の一歩を踏み出し、四辺をゆっくりと歩いていく。片足を踏み外して奈落に落ちかける身体、危ういところで保たれるバランス。女の代わりに落下したナイフが鋭い金属音ときらめく光で空間を切り裂く。女の歩みは次第に大胆になり、両足を大きく振り払ってナイフを落下させる。脅かすものを自ら取り払う勇気。開かれた自由な領土で女は踊る。テーブルの「上」は危険と隣り合わせだが自由を切り開ける世界、テーブルの「下」は安全な隠れ場だが、身動きの取れない窮屈な世界だ。やがて女は、どん、と足を大きく踏み鳴らす。自分の存在を知ってほしい焦燥か、怒りか。怯えるように身をかがめたまま、テーブルの下から出ようとしない男。テーブルの「上」にいる女は抑圧する存在なのか、「下」の世界にいる男はそれを支えて耐え続けているのか。ラストでは、仰向けになった男が両手足でテーブルを斜めに持ち上げ、女はひとり光を浴び、不安定な斜面の上に立ち続ける。男は女を讃え上げているのか、足場を崩そうとして精一杯の抵抗を試みているのか。空間を包み込む虫の鳴き声が、逆に生命の死に絶えた世界の果ての静寂を連想させるような暗がりの中、ミニマムに削ぎ落された両義的な二者の関係性が恐ろしいまでの美しさとともに提示された。


[Photo: Sajik Kim]

一方、『それから六千五百年地球はぐっすり寝るだろう』は、三好達治の詩「灰が降る」の一節からタイトルを取った作品。この詩は1954年の第五福竜丸事件を契機に書かれ、「六千五百年」はプルトニウム240の半減期を指す。出演したダンサーの辻本佳と公募ワークショップの参加者たちは、計10人という集団のダイナミズムの力を借りて、さまざまな風景を舞台上に出現させた。押し寄せる波の轟きを体現した身体は、次の瞬間には浜辺に累々と横たわる死者に擬態する。2mほどの木材を巧みに使い、「巫女舞」が舞われる厳粛な社、風にざわめく林、死者の列があの世へ渡っていく細い道などが自在に出現する。筏の上に身を寄せ合って「おーい」と叫ぶ人々は、海に流され救助を求めているのか、沈みそうなボートに乗る難民なのか、対岸から手を振る死者たちなのか。印象的な強いシーンは多かったが、「文学との交差」という点では、「直立したパフォーマーが詩を朗読する」という直接的な提示に留まっていた点が惜しまれた。


[Photo: Sajik Kim]

2018/02/17(土)(高嶋慈)

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