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artscapeレビュー

野村次郎『茜と梅』

2018年03月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2017/11/01

野村次郎は「日常」を撮影し続けている写真家だ。身近な人物たちや周囲の状況、日々の移ろいなどをカメラにおさめていく行為は、もはや日本人の写真表現のベースになっていて、これまでも多くの作品が発表されている。だが、野村が刊行してきた写真集『遠い眼』(Visual Arts、2009、第7回ビジュアルアーツアワード受賞作)、『峠』(Place M、2012)、そして本作『茜と梅』を見ると、そこに漂っている空気感が、ほかの写真家たちの「日常写真」とはかなり違っていることがわかる。中判カメラで撮影され、モノクロームにプリントされた写真の一枚一枚は、鋭いエッジのナイフで切り出されたような緊張感を湛え、タナトスの気配が色濃く漂っている。写真を見ていると、じわじわと「怖さ」に捕われてしまうのだ。

野村は一時期「引きこもり」になり、精神的に不安定な時期を過ごしたことがあった。その後、「茜ちゃん」と出会って結婚し、犬を飼い始めて小康を得る。だが、精神状態の微妙な変化に対応する日々はいまも続いているようだ。野村にとって、写真を撮ることは、ともすれば向こう側に大きく振れてしまう自分自身を保ち続けるための緩衝剤の役目を果たしているのではないだろうか。本作に登場する「茜ちゃん」と彼女を包み込む世界は、ほのかな微光に包まれているように見える。ぎりぎりの綱渡りでつくり上げられてきた写真たちにも、以前に比べると柔らかなふくらみがあらわれてきた。撮り続けることと生きることとのバランスをうまく保ち続けて、繊細だが強い吸引力を持つ作品世界を、より大きく育てていってほしいものだ。

2018/02/13(火)(飯沢耕太郎)

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