artscapeレビュー

市川孝典×鬼海弘雄「sprinkling A-side」

2018年03月15日号

会期:2018/02/08~2018/03/09

Basement GINZA[東京都]

市川孝典は、60種類以上の線香で紙を焦がしたり、穴を空けたりして繊細で緻密な画像を描き出していく「線香画」と呼ばれる手法で知られるアーティストである。これまでは、彼自身の記憶の中の視覚像を再現する作品が中心だったのだが、今回のBasement GINZAの展示では、写真家の鬼海弘雄のポートレートや風景作品をモチーフにした作品を発表した。会場には鬼海がインド、アナトリア(トルコ)で撮影した写真も並び、さらに「線香画」だけでなく、3種類の顔料で画像を描き、それを電動サンダー(紙ヤスリ)で削りながら仕上げていく、新たな手法の作品も展示してあった。

市川の作品は、むしろ絵画というよりは写真に近いのではないかと思う。カメラやフィルムや印画紙こそ使っていないが、頭の中の画像を紙に定着するプロセスはストレートな写真そのものであり、絵画的な改変や変更はまったく行なわれていないからだ。「見える」ものをそのまま再現するという、最も基本的な写真の原理を、彼は自らの身体をカメラと化して体現しているわけで、そのこと自体が驚くべきことだ。それだけではなく、今回のコラボレーションを通して見ると、市川が鬼海の写真の本質をきちんと把握し、むしろそれを増幅して表現しているのではないかとも思えてくる。他者が撮影した写真を「偽りの記憶」として再現するという今回の試みは、さらに大きく発展していく可能性を秘めているのではないだろうか。

なお同時期に、東京・池の上のギャラリーQUIET NOISE arts and breakでも、市川の新作展「Slip out」(2月8日〜2月17日)が開催された。こちらはSNSの画像をモチーフに、電動サンダーで仕上げた作品群だが、はじめて色つきの画像にトライしている。意欲的に作品世界の幅を広げつつある。

2018/02/10(土)(飯沢耕太郎)

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