2019年12月01日号
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artscapeレビュー

安村崇『1/1』

2018年03月15日号

発行所:オシリス

発行日:2017/12/15

安村崇の「1/1」のシリーズは、前に個展(MISAKO&ROSEN、2012)で見たことがある。その時は面白い試みだとは思ったが、あまりピンとこなかった。だが今回写真集として刊行された『1/1』を見て、その目に鮮やかに飛び込んでくる印象の強さに驚きを覚えた。おそらく、ギャラリーの展示が精彩を欠いていたのは、壁に並ぶ作品が一度に目に入ってくることと、作品以外の要素(ノイズ)が作用して、このシリーズの純粋性が損なわれてしまうからではないだろうか。しかし、写真集のページをめくって一点一点の作品を味わうことで、安村が4×5インチ判の大判カメラのファインダーを覗いて被写体と対面している視覚的体験を追認しているようにも感じられた。

安村が撮影しているのは「主に地方の公園や港、市民会館など公共の場」の壁、床面、屋根などであり、それらの表面の凹凸や色彩が、一切の妥協なくまさに「1/1」の画像に置き換えられている。にもかかわらず、清水穰が写真集の解説の文章(「イクイヴァレント2017──安村崇によるスティーグリッツの再解釈」)で指摘するように、「その厳格な方法論から見れば人間的な要素を一切排除した極北の写真」であるはずなのに「まさにそのことによって、人間くさい世界を回帰させる」という逆説が生じてくる。そこに写っているのは、経年変化で趣味の悪さがさらに露呈してしまった「公共の場」の、身も蓋もなく散文的な外観であり、日本社会の縮図ともいうべき眺めなのだ。

安村がデビュー作の「日常らしさ」(1999、「第8回写真新世紀」グランプリ)以来追い求めてきた、写真を通じて具体的な世界を「見る」ことの探究が、また一段階先に進んだのではないだろうか。

2018/02/19(月)(飯沢耕太郎)

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