artscapeレビュー
村山康則「月の出てない月夜の晩に」
2018年03月15日号
会期:2018/02/14~2018/02/20
銀座ニコンサロン[東京都]
会場に掲げてあった村山康則のメッセージを引用しておくことにしよう。
「いくつもの層が 複雑に絡み合うように矛盾に満ち、一面的には理解しえない社会をそのままに 受け止めること/社会の中の個の存在/そういったものを 表現したいと思いました」。
28点の写真に写り込んでいるのは、都市風景の断片である。一見すると多重露光のようなのだが、実際にはガラスの映り込みと向こう側の光景を、そのままストレートに撮影したものだという。都市を構成する「いくつもの層」をガラスや鏡を媒介として浮かび上がらせる手法は、特に珍しいものではないが、ポジションの選択と画面構成が的確なので、意図がきちんと伝わってくる。特にビルなどの小さな窓とその中の人物たちの姿を、とてもうまく取り込んだことで、「社会の中の個の存在」がきちんと浮かび上がってきていた。撮影時間を夜に絞ったこともよかった。クオリティの高い、安定感のある表現だが、このままだと見え方がパターン化する可能性がある。もっとダイナミックな視点の変化を試みること、また東京や横浜だけでなく、アジアのほかの国々などへも被写体を広げていくことも考えられそうだ。
北海道出身の村山は、ワークショップやグループ展に積極的に参加している写真家だが、本格的な個展は今回が初めてだという。この展示を機会にさらに作品をスケールアップしていってほしい。なお本展は3月15日〜3月21日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2018/02/19(月)(飯沢耕太郎)