artscapeレビュー
尾形一郎 尾形優「UNMANNED」
2018年03月15日号
会期:2018/02/24~2018/03/31
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
尾形一郎と尾形優は、30年前に新婚旅行でベルリンに行った時に「ベルリンの壁やスターリン時代の超高層ビル、商店の存在しない街といった、価値観の転倒した世界」に大きな衝撃を受ける。その驚きを表現するために、87分の1スケールのキットを組み合わせて、鉄道が縦横に走る架空の街のジオラマをつくり始めた。最初のジオラマが完成した後、新たに住居を兼ねた「東京の家」を建てることが決まり、その一室に「もう一つの小さな都市」として、さらにスケールアップした新しいジオラマをつくることになる。それは最終的に2m×8mの大きさの精密なジオラマとして完成した。
今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展「UNMANNED」には、このジオラマを4K撮影した画像を再編集した2点の映像作品が出品されていた。音のない光の動きだけに抽象化された作品と、走る列車から撮影された映像に、世界各地の都市で収録された音声を重ね合わせた2作品だが、特に後者の映像の面白さは特筆すべきものがある。「転倒する共産主義の世界、巨大な工場、終着駅、廃屋、団地、ガード下に広がる飾り窓……」といった眺めが、列車の走行とともに次々に展開し、めくるめくイメージの氾濫に身をまかせていると、ここには確かに「もう一つの小さい都市」が存在していると実感することができる。この作品の隠しテーマは「20世紀」ではないだろうか。資本主義と共産主義が火花を散らして対峙していたあの時代の感触が、まざまざと蘇ってきた。
ただ、僕はたまたま「東京の家」のジオラマを見ているのだが、それを体験しているか、していないかでは、作品の見え方にかなりの違いが出てくる。「東京の家」でこの作品を上映するのが一番いいのだが、それが難しければ、ジオラマの一部を移動して、映像と一緒に展示するのもひとつのやり方だろう。
2018/02/24(土)(飯沢耕太郎)