artscapeレビュー

金川晋吾「長い間」

2018年03月15日号

会期:2018/01/27~2018/02/25

横浜市民ギャラリーあざみ野[神奈川県]

毎年この時期になると、「あざみ野フォト・アニュアル」の一環として、現代写真家の企画展が開催される。今年は「蒸発」を繰り返す父親を撮影した「father」シリーズで注目を集めた金川晋吾(1980、京都府生まれ)をフィチャーした「長い間」展を見ることができた。

2008年から撮り続けられている「father」は、すでにかなりの厚みに達しており、2016年には青幻舎から同名の写真集も刊行されている。今回は出品点数を14点に絞り、大きめのプリントを並べて、父親のポートレートと観客とが正対するような展示にしていた。そのことによって、彼自身の人生をそのまますべて呑み込んでしまったような、なんとも不可解かつ曖昧な中年の男の存在感が、より生々しく露呈しているように感じた。金川は父親にカメラを預け、毎日自分の顔を撮影してもらうというプロジェクトも試みているのだが、それらの画像は映像作品としてスライドショーのかたちで見せている。その上映時間はなんと3時間22分。さすがに全部見ることはできなかったが、しばらく見続けていると、なかなか目を離せなくなってしまう。

もうひとつ、今回は金川が2010年から撮影し始めた「叔母」(父親の姉)のポートレート作品19点もあわせて展示されていた。彼女も理由がわからないまま失踪し、20数年間行方不明になっていたのだという。ここでも「father」と同じく、彼女の顔貌や微妙な身体の傾きを、ことさらに感情移入することなく淡々と写し取っているだけなのだが、やはり見ているうちに、写真に強く引き込まれていく。「人間とは何か?」という根源的な問いかけを受け止めないわけにはいかなくなる。どちらも、まさに「長い間」見続けていたくなる、奇妙な引力を持つ写真群だ。

なお同会場では、「平成29年度横浜市所蔵カメラ・写真コレクション展」として、「写真の中の身体」展が併催されていた。横浜市所蔵の古写真、写真機材のお披露目展だが、こちらもよく練り上げられたいい展示だった。

2018/02/07(水)(飯沢耕太郎)

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