artscapeレビュー

北帝国戦争博物館、マンチェスター博物館、ウィットワース美術館

2019年10月15日号

[イギリス、マンチェスター]

博物館を調査するプロジェクトのために、イギリスに渡航した。マンチェスターにて、念願のダニエル・リベスキンドが設計した北帝国戦争博物館を訪問した。ウォーターフロントに位置し、独特の外観ゆえに、水辺のランドマークとして機能している。もっとも、地球を表象する球体を立体的に分割し、それらの断片を再構成するという思弁的な形態操作による外観は張りぼて気味で、内部の空間との関係も薄く、微妙である。とはいえ、展示のデザインは結果的に彼らしいユニークな場となっていた。すなわち、全体的に斜めに傾いた不安定な床、天井は高いがひどく狭い通路、そして大空間に林立する鋭角的なヴォリューム群(それぞれの内部はテーマ展示室)である。おそらく展示として使いづらいという批判もあるだろうが、それがもたらす異様な空間体験は、戦争という展示物との相性もよい。



北帝国戦争博物館の外観



ダニエル・リベスキンド設計、北帝国戦争博物館の展示風景


マンチェスター大学の博物館は、メイン・エントランスのリノベーションにあわせ、アジアのコレクションなどのエリアは閉鎖中だった。したがって、自然史のエリアのみを鑑賞する。それほどコレクションは多くないが、独自のテーマの設定やメタ的な視点が導入されており、興味深い。またイギリスのインド抑圧をテーマにした現代アートの巨大絵画や、パンジャブの虐殺の歴史展示もあった。あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」を電凸と脅迫で閉鎖に追い込むような日本なら、間違いなく自虐的な内容として炎上するだろう。さすがにイギリスは大人の国に成熟している。


マンチェスター大学の博物館



イギリスのインド抑圧に関する歴史展示。マンチェスター大学の博物館より


続いて、マンチェスター大学のウィットワース美術館を訪れた。古典主義の建築を増築したものである。巨匠のセザンヌの企画を除くと、壁紙デザイン、イスラムの女性アーティスト、アンデスのテキスタイルなど、切り口がユニークだった。そしてガーナのイブラヒム・マハマによる二等車の椅子を議会風に並べた大型のインスタレーションが力強い。この美術館は公園に面しており、立地の良さを生かした、緑に包まれたガラス張りのカフェ空間も良かった。


古典主義建築を増築したウィットワース美術館



ガーナのイブラヒム・マハマによるインスタレーション



ウィットワース美術館内にある、緑に包まれたガラス張りのカフェ

公式サイト:
北帝国戦争博物館 http://www.iwm.org.uk/north/
マンチェスター博物館 https://www.museum.manchester.ac.uk/
ウィットワース美術館 https://www.whitworth.manchester.ac.uk/

2019/09/11(水)(五十嵐太郎)

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