2020年06月01日号
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artscapeレビュー

We are bound to meet: Chapter 1. Many wounded walk out of the monitor, they turn a blind eye and brush past me.

2019年10月15日号

会期:2019/08/09~2019/09/08

Alternative Space LOOP[韓国、ソウル]

「歴史的トラウマの傷」をテーマにした若手作家のグループ展。「We are bound to meet」というタイトルには、「自己と他者」という対立軸ではなく、「私とあなた」を共に含む「We」という単位によって歴史を考えることで、傷の本質に近づく端緒が開ける、という思いが込められている。日本の植民地支配の歴史を「we」の問題として考えるために、同じトラウマを共有する韓国と台湾の作家の作品を集め、多角的な検証を行なっている。本展は3部構想で計画されており、その第1章が開催された。

台湾と韓国それぞれにおける象徴的な建築物を通して、国家と国家、国家のナラティブと個人の記憶の関係を見つめる点で共通性と対称性を示していたのが、Liang-Pin TsaoとChung Jaeyeonの作品である。Liang-Pin Tsaoは、台北にある忠烈祠(辛亥革命など中華民国建国や日中戦争での戦没者を祀る祠)が、植民地期は護国神社であった史実に着目。ライトボックスに仕立てた写真は片側がカラーによる現在の忠烈祠、反対側がモノクロで撮られた護国神社の写真資料で構成され、「国家的イデオロギーへの奉仕」という点で両者が表裏一体であることを示す。鳥居を背にした軍服姿の男性や整列した女学生の集合写真。一方、カラフルな中華風の門と観光客の群れ、現存する神社をフォトジェニックなロケ地と見なしてコスプレや結婚式の記念撮影に興じる若者たちのスナップは、「(負の)歴史遺産のロマンティックな消費」「文化的アイデンティティのハイブリッド性」について問いかける。

一方、「国家的イデオロギーの象徴としての建築」をより個人的な経験のレベルから問うのが、Chung Jaeyeonの映像作品《A Sketch for a Foundation》。記録映像と現在の光景を織り交ぜながら彼女が静かに語り始めるのは、かつて朝鮮総督府だった建築をめぐる幼少期の記憶である。朝鮮総督府の建物は、日本の敗戦後、アメリカ軍の接収、政府庁舎を経て国立中央博物館に転用されたが、その歴史を知らずに博物館を訪れた幼い頃の彼女にとっては「宮殿のような美しい場所」であり、1995年に爆破解体のニュース映像が流れた時には悲しみを覚えたという。政治的、歴史的、集合的な記憶と個人的な記憶との断層を見つめる語りは、「歴史の消去」という企ての愚かしさ、国家的な単一のナラティブを多面的に解体すること、「過去」を当時生きた人々とは異なる視線で眼差す可能性、「真正な文化的アイデンティティ」への疑義をめぐる省察へと昇華されていく。

このように、歴史的トラウマを、(直接的には体験していない世代による)「現在」の視線で見つめ直し、冷静かつ多面的な視点から検証し、思考の共有地を開くような展覧会こそ、現在の日本に最も必要なのではないか。

2019/09/05(木)(高嶋慈)

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