2020年09月15日号
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artscapeレビュー

シンディ・シャーマン展、タキス展、オラファー・エリアソン展、ドーラ・モウラー展

2019年10月15日号

ナショナル・ポートレイト・ギャラリー、テート・モダン[イギリス、ロンドン]

ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーで開催された「シンディ・シャーマン展」を鑑賞した。実はこの建物の内部に入るのは初めてなのだが、肖像画に特化した美術館ゆえに、なるほど、変装した自画像を撮影し続けたアーティストの個展が企画されたわけである。学生時代の作品も紹介されていたが、すでに彼女のアイデンティティを分裂させるようなさまざまな変装やメイクを施していたことがわかる。そして映画、雑誌の表紙の改竄、ピンクローブ、歴史画、ファッション、ピエロ、セックス、マスク、セレブの婦人など、各時代に展開した仕事のシリーズを総覧できる内容だった。

彼女自身が歳を重ねることで、開拓される新しいシリーズも確認できる。やはりケバケバしい色鮮やかな作品よりも、映画のワンシーンを再現したかのような初期のモノクロ作品が強力だ。単なるポストモダン的な何かの引用ではなく、特定の起源なきコピーという洗練された手法だからである。またさまざまな変装グッズが収集された彼女のスタジオを再現した展示も興味深い。



シンディ・シャーマンの展示風景



シンディ・シャーマンのスタジオを再現したコーナー


テート・モダンでは、幾何学をモチーフにした3人のアーティストをとりあげていた。そもそもオラファー・エリアソンの個展を見るために足を運んだが、思いがけず、同時開催の「タキス展」がとても良かった。彼は、2019年8月に逝去したギリシア出身の彫刻家であり、重力に逆らい、宙に固定された造形など、磁力を生かした緊張感をもつ空間インスタレーションを展開している。単純な仕掛けだが、尖ったオブジェがぴんと張りつめた状態で浮いているのだ。また作品を楽器としてとらえ、音響を放つ幾何学的な作品も、コスモロジーを感じさせて素晴らしい。



タキスの展示風景



タキスの展示風景。音が発生する作品


さて、オラファー・エリアソンの個展は、確かに体験として楽しいのだが、各部屋で手を替え品を替え、いろいろなタイプの仕掛けが連続すると、科学エンターテインメントとの境目に位置して微妙かな、という作品もやはり多い。おそらく、金沢21世紀美術館のように、通路でいったんリセットしてから、それぞれのホワイトキューブに入ると、それほど気にならないのだろうが、あれだけ次々と部屋が続くと、印象がだいぶ変わる。またテート・モダンでは、ブタペスト出身の「ドーラ・モウラー展」も開催中だった。彼女の知的かつ幾何学的なアプローチによって錯視を引き起そうとする態度は、たいへん共感がもてるものだった。



オラファー・エリアソンの展示風景



オラファー・エリアソンの展示風景



ドーラ・モウラーの、錯視を引き起こす展示風景


公式サイト:
ナショナル・ポートレイト・ギャラリー http://www.iwm.org.uk/north/
テート・モダン https://www.tate.org.uk/visit/tate-modern/

2019/09/14(土)(五十嵐太郎)

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