artscapeレビュー
鹿児島市内、歴史と文化の道
2020年05月15日号
鹿児島市内で、鶴丸城跡の堀沿に続く歴史と文化の道を歩くと、周辺に《鹿児島市中央公民館》(旧公会堂、1927)や《鹿児島市庁舎本館》(1937)など、近代の様式建築がよく残されているのに気づく。また美術館、文学館、図書館など、現代の文化施設も付近に集中している。ザ・シンメトリーというべき構成をもち、クラシックなテイストの《鹿児島市美術館》(1985)は、やや硬いポストモダンの建築だった。企画展は延期されていたものの、常設展は鑑賞することができた。
谷口吉郎が手がけた《鹿児島県立図書館》(1979)と、そのデザインを踏まえた隣の《鹿児島県歴史資料センター黎明館》(1983)は、隈研吾に先駆けて、切妻屋根、ルーバー、中庭などのヴォキャブラリーを効果的に使った、落ち着いた和モダニズムの建築である。前の週に訪れた宮崎とは違い、訪問時の鹿児島にはほとんど感染者がいなかったためか、いずれの施設も新型コロナウィルスによる閉館はされておらず、入館することができた。《黎明館》では1階が歴史、2階が民俗、3階が美術、屋外で民家が展示されており、想像以上に大きく、しかも充実した内容である。なお、来場者はまばらで超低密度の空間だった。
曽禰中條建築事務所による《旧・鹿児島県庁本館》(1925)は、おかしなプロポーションの外観だと思ったら、やはり大部分を切除し、中心だけを保存したからだと判明した。室内で歴代県庁の建築史がちゃんと展示されていたからである。その斜向かいには、日本設計による巨大な《かごしま県民交流センター》(2003)が建っており、驚かされた。おそらく様式建築を意識したクラシック調の外壁だが、大階段、空中のブリッジ、円形にくり抜かれたフロアなど、ダイナミックな構成の建築である。ただし内部空間には、それほどのインパクトはない。
《かごしま近代文学館・メルヘン館》(1998)では、入館時に感染対策として住所の記載を求められたが、やはりどちらも開館はしていた。《文学館》では、鹿児島ゆかりの文筆家が紹介されているのだが、建築の構成上、二階のブリッジを渡ると見えてくる、向田邦子に捧げられた神殿のような展示空間が印象的だった。また円錐状のヴォリュームをもつ《メルヘン館》は、螺旋状に降りていく空間構成による、アリスなどをモチーフにした子供向けのテーマパーク的な空間である。もっとも、これを公共建築でやるべきかという疑問もなくはない。
2020/03/29(日) (五十嵐太郎)