artscapeレビュー
インポッシブル・アーキテクチャー展、その後
2020年05月15日号
昨年から今年にかけて国内を 4館巡回した「インポッシブル・アーキテクチャー」展に使われた、東北大学五十嵐研が制作した川喜田煉七郎によるウクライナ劇場国際コンペの入賞案模型(監修・菊地尊也)とマレーヴィチのアルヒテクトンの模型が返却された。大学も用事がない学生を登校させないという、すでに閉鎖に近い状態だったため、事前に承認を得て、模型の受け取りを行なったが(数日後、緊急事態宣言の拡大を受けて、教職員も原則、在宅という強い警戒体制に移行)、企画を担当した埼玉県立近代美術館の学芸員・平野到氏から、新型コロナウィルスの影響で、現在美術館で起きている状況について、いろいろなお話をうかがうことができた。自動車で直接運んでいける国内はともかく、海外から借りたところへのドローイングや資料の返却が、ややこしくなっているらしい。具体的には、カナダ建築センター(CCA)やダニエル・リベスキンドの事務所などだが、館がクローズしていたり、担当者が出勤していないため、受け取りの体制が整わず、スムーズにいかないという。
返却が以上の状況ならば、これから企画する展覧会のために国外を調査したり、美術館から作品を借りたりするのにも、当然支障をきたすはずだ。ということは、海外から作品を借用する直近の展覧会は、なんらかの変更が必要となるかもしれない。準備するための期間を考えると、問題が収束しなければ、1年後や2年後にも影響を及ぼすだろう。人の移動が制限されるコロナの時代においては、アート作品も場所を変えることが困難になっているのだ。確実に企画を実行できるのは、各館のコレクションを活用したものしかない。もちろん、こうした機会だからこそ、大量の来場者数を稼ぐイヴェント的なブロックバスターの企画展(しかも会場と行列は、三密!)ばかりが注目される日本において、ソーシャル・ディスタンスが十分に確保できる来場者数でもいいから、積極的にコレクションの魅力を再発見できるような工夫が推進されていくとよいだろう。それこそが、本来の美術館の力でもある。
2020/04/14(火)(五十嵐太郎)