artscapeレビュー
日本建築設計学会大賞
2020年05月15日号
会期:2020/04/04
ASJ UMEDA CELL[大阪府]
がらがらの新幹線で大阪に向かった。午後から梅田のASJ UMEDA CELLで開催された第3回日本建築設計学会賞の審査に出席するためである。本来ならば、来場者を前にしながら、6名の建築家によるプレゼンテーションと質疑を通じて、公開で大賞を決めるものである。しかし、会場における気合の入った模型、映像、パネルを用いた作品の展示が、4月5日までだったため、無観客の状態とし、審査員のみ(竹山聖、古谷誠章、倉方俊輔、筆者)で議論することになった。
まず現地で作品を見学した担当の審査員が説明しながら、会場をひとまわりした。超ローコスト・セルフビルドによって過疎地域の祭を復活させた渡辺菊眞の《金峯神社》、強い建築の形式を生みだしつつリノベーションの感覚を注入した古澤大輔の自邸、引き剥がされた二重の皮膜によって独特の居住空間を提案した青木弘司による《伊達の家》、美しいフォルマリズムによる桑田豪の《サンカクヤネノイエ》。
以上の4作品は、それぞれに優れた特徴をもつことを確認しつつ、各審査員が推挙する作品を総合していくと、最後は2作品に絞られた。山田紗子の《daita2019》と、垣田博之の《UTSUROI TSUCHIYA ANNEX》である。前者は野性味あふれる東京の自邸、後者は地方都市のリノベーションによる宿泊施設だ。
個人的に、これまで2回あった日本建築設計学会賞の審査では、現地審査に行けなかった作品から、大賞を推すことはなかったのだが、今回は展示を見たときから、実物に訪れていない《daita2019》が気になっていた。キメの写真に絞らず、むしろランダムなジャングル・ジムの様々な場面を切りとったたくさんの小さな写真を散りばめたプレゼンテーションも、デザインの方向性と合致しており、魅力をよく伝えていたように思う。
が、この作品に惹かれたのは、ある程度、既存の枠組から解釈し、位置づけができた他の候補に比べて、まだうまく言語化できない空間だと感じたことが大きい。いまだまだ見ぬ新しいデザインが、東京に出現していること。藤本壮介の事務所から、さらにプリミティヴ・フューチャー的な建築家が登場したのである。どうしても見たいと思った建築である。討議を経て、最終的に《daita2019》が大賞に選ばれた。なお、新型コロナウィルスのこともあり、本来は予定されていた懇親会は開催されなかった。
参考サイト:第3回日本建築設計学会賞審査結果 http://www.adan.or.jp/news/topics/2908
2020/04/04(土)(五十嵐太郎)