artscapeレビュー
ポカリスエットCM「ポカリNEO合唱」篇
2020年05月15日号
クライアント:大塚製薬
企画制作:電通・なかよしデザインスプーン
非常事態宣言が発令されてから1カ月以上が経った。長引くコロナ禍で、テレビ放送のあり方も変わった。ニュースやワイドショーなどでは出演者がリモート出演するのが当たり前になり、多くのロケやドラマが撮影中止や延期となったため、過去の番組を再放送する動きが盛んである。では、テレビCMはどうか。海外旅行に行く。家族で行楽地に出かける。友人たちと飲み会を開く。そうしたいままで当たり前にできていたことができない非常事態である。企業はどんな方法で商品やサービスを訴求すればいいのか。いま、新たなコミュニケーションデザインが問われている。
こうした状況下で、ひと際目を引くテレビCMが4月から流れ始めた。大塚製薬「ポカリスエット」のCMである。ひとりの可憐な女子高校生が、自分の部屋でスマホの自撮り画面に向かって歌を歌い始める。が、ひとりではなく、複数人の歌声が重なり合って聞こえてくる。と思った次の瞬間には、やはり自撮りされた複数人の中高校生の顔が画面にタイル状に並び、その数がどんどん増えていく。そして一人ひとりが画面に向かって一所懸命に歌い踊る姿が、小気味良いテンポで、順に大きくフォーカスされていく。同社がこのCMを「ポカリNEO合唱」と名づけたように、これはオンラインを使った新しい合唱なのだ。CMのコンセプト文の冒頭にはこう書かれている。「今はみんなで会えないけれど、歌は歌える」。世の中の空気を鮮やかに読んだ映像表現に、SNSでも高い評価が集まった。
このCMを紹介するネット記事を参照してみると、もともと、同社では「合唱」を軸に昨年秋頃からCMの企画が始まっていたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、大勢の中高校生が一堂に集まって合唱するシーンを撮影することが困難になり、急遽、中高校生にそれぞれの自宅で自撮りしてもらう企画へと変更したのだという。まさにピンチが新しい表現を生んだのだ。自宅で過ごす時間を少しでも楽しんでもらおうと、最近はタレントやミュージシャンらによる歌のコラボやリレーの動画配信が盛んである。「ポカリスエット」のCMはこうした動画も彷彿とさせる。スマホを当たり前に持ついまの中高校生たちは、自撮りで自分を表現することに慣れているという。そのためかわずか30秒の映像のなかで、彼らの情熱がワッと伝わり、見ている方も胸が思わず熱くなった。
公式サイト:https://www.otsuka.co.jp/adv/poc/tvcm202004_02.html
2020/05/04(月)(杉江あこ)