2020年11月15日号
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artscapeレビュー

内藤コレクション展II「中世からルネサンスの写本 祈りと絵」

2020年09月01日号

会期:2020/06/18~2020/08/23

国立西洋美術館 版画素描展示室[東京都]

写本コレクターの内藤裕史氏が集め、美術館に寄贈した写本リーフの一部を公開。『コレクションへの道のり』というパンフレットによると、内藤氏は40年ほど前、パリの古本屋で1枚ずつバラ売りされていた写本の美しさに惹かれてコレクションを始めたという。1冊の完本ではなく1枚ずつ購入したのは、そのほうがはるかに安いというだけでなく、本のかたちでは1枚1枚見ることができないからだ。つまり内藤氏は写本を美術作品として鑑賞の対象にしたかったのだ。

中世からルネサンス初期にかけて絵画の主流はフレスコ画、つまり「不動産美術」であった。もちろん彩飾写本のような「動産美術」もあったが、印刷本と違って数が少ないうえ、サイズも小さく、修道院や王侯貴族の邸宅に秘匿されて限られた人しか触れることができず、しかも閉(綴)じられ、鍵をかけられていることもあるため、見ることすらかなわなかった。さらに彩飾を施した作者も匿名だし、所蔵先も美術館より図書館や博物館のほうが多いので、美術の主流にはなりえなかったのだ。とりわけ実物を見る機会がほとんどなかった日本では、彩飾写本は美術史から省かれてしまっている。でも実際に見てみれば、なにより色彩の美しさに惹かれる人も多いはず。

1枚(リーフ)ごとに額装された写本は思った以上に小さく、絵も文字も限界に近いまで細密に書かれている。その大半は、日々決められた時間に朗読する祈祷文などが書かれた「時禱書」と呼ばれるもので、それまでの修道院で書かれ、修道士しか読むことのできなかった宗教書と違って、家庭用または個人用の小型本だった。なかでも有名なのは『ベリー公のいとも豪華なる時禱書』だが、あれほど豪華ではないものの、注文主は王侯貴族や裕福な市民だったため、彼らの趣味を反映して華麗な装飾が施されているものが多い。アルファベットも細かいながら、1字1字がピンと立っている。これは惹かれるのがわかるなあ。

2020/08/07(金)(村田真)

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