artscapeレビュー
鈴木理策写真展「海と山のあいだ 目とこころ」
2020年09月01日号
会期:2020/07/21~2020/08/08
鈴木理策は1963年、和歌山県新宮市の生まれだから、今回の出品作のテーマである熊野という土地は、慣れ親しんだ原風景ということになる。これまでも「海と山のあいだ」というタイトルで何度か発表してきた。それでも、滝、樹木、草むら、海辺など、大判のプリントに引き伸ばしてゆったりと会場に並んだ作品18点(3枚組のシークエンスもあり)を見ていると、まるで初めて目にした風景を撮影しているような、新鮮な「こころ」の動きが伝わってくる。
それはひとつには、彼が8×10インチ判の大判カメラという、構図やシャッタースピードなど、撮影時のコントロールがむずかしい機材を使っているためではないだろうか。技術的な困難を克服するために、つねに緊張を強いられるということだ。もうひとつは、写真を「撮る」だけでなく、ネガやプリントを見てそれを「選ぶ」ことを重視しているからだろう。会場に掲げたコメントに、熊野で「撮ったものを見ると必ず新たな発見がある」と書いているが、大判カメラには、写真家の主観的な思惑を超えて、そこにある事物を客観的に写し込み、「あるがままの世界」を出現させる力が備わっている。その「純粋なカメラの目」を尊重しつつ、いかに使いこなしていくかというところに、鈴木が長年にわたって実践してきた写真行為の真骨頂がある。それはまさに「目とこころ」の共同作業というべきだろう。
「海と山のあいだ」シリーズは、風景写真の新たな枠組みを構築する作業としての厚みを備えつつある。すでに2015年にamana saltoから写真集として刊行されているが、続編も含めた新編集版を見てみたい。
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2020/07/30(木)(飯沢耕太郎)