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宇山聡範写真展「Ver.」

2020年09月01日号

会期:2020/08/13~2020/08/25

銀座ニコンサロン[東京都]

1976年、大阪出身の宇山聡範は、火山活動によって出現した日本各地の「地獄」と呼ばれる場所を撮影している。火山国の日本では、噴煙が上がったり、地下からマグマが噴出したりするのはよく見られる現象である。それにより、それぞれの場所に赤、黄色、青といった印象的な色彩を持つ岩石や湖沼などの、独特の景観が形成されてきた。宇山は撮影にあたって、実証的な手法で歴史や自然現象にアプローチするのではなく、「それらを視覚的に受けとめ、それぞれの物語性の濃淡や生成された時代の差異を越えて再配置することで、『地獄』とは別の『解釈(ヴァージョン version)』を示し、『場所』の見方に拡がりを持たせようと」試みている。結果的に、そのやり方はうまくいったのではないかと思う。「地獄」という名称に捉われることなく、さまざまな景観をニュートラルな視点で見直すことで、表層的な眺めだけでなく、火山活動という根源的な動因を想像させることに成功しているからだ。

だが、景観を「視覚的に受けとめ」るだけでは、「解釈」の幅が広がって、どうしても場当たり的になってしまう。次の課題は、「物語」を解体した先に、写真によるもうひとつの「物語」を構築することではないだろうか。また、「地獄」という名称が、主に観光事業によって命名されていったように、これらの景観には人間の営み(鉱工業なども含めて)もまた大きく作用しているはずだ。その辺りにも目を配ることで、もう一回り大きなシリーズとして成長していく可能性を感じる。そうなると、写真の選択、見せ方も、現在とは違ったものになっていくのではないかと思う。

なお、本展は会期を短縮して、9月3日〜9日に大阪ニコンサロンに巡回する。

関連レビュー

宇山聡範「Ver.」|高嶋慈:artscapeレビュー(2016年08月15日号)

宇山聡範「after a stay」|小吹隆文:artscapeレビュー(2012年07月01日号)

2020/08/13(木)(飯沢耕太郎)

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