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瞬く皮膚、死から発光する生

2020年09月01日号

会期:2020/08/25~2020/11/03

足利市立美術館[栃木県]

とても充実した内容の展覧会だった。出品作家は、石内都、大塚勉、今道子、髙﨑紗弥香、田附勝、中村綾緒、野口里佳、野村恵子の8人。このような多岐にわたる作風の写真家たちによるグループ展では、担当学芸員の力量が問われるのだが、同美術館の篠原誠司による人選とキュレーションがうまくいったということだろう。

写真という表現媒体は、基本的に生の世界に向けて開いている。写真家たちは「生きている」人やモノや出来事を撮影するのだが、そこには否応なしに死の影が写り込んでしまう。あらゆるものは死(消滅)に向かって歩みを進めており、写真を見るわれわれは、その予感を感じとってしまうからだ。逆に、死のイメージに色濃く覆い尽くされた被写体(例えば死者や廃墟)に、生の契機を見出すこともある。写真家たちの仕事を見ていると、生と死が二項対立ではなく一体化していること、生のなかに死がはらまれ、死のなかから生が輝き出してくることがよくわかる。

今回の「瞬く皮膚、死から発光する生」展は、そのことをいくつかの角度から浮かび上がらせようとする意欲的な企画である。各作家の展示スペースや作品の配置に細やかな気配りが感じられ、薄い紙に画像を定着・形成する写真という表現媒体を、生と死を媒介する「皮膚」に喩える発想も、充分に納得できるものだった。

石内、大塚、今、田附の旧作を中心にした展示もよかったが、髙﨑、中村、野口、野村の新作のほうがむしろ心に残った。自分の子供にカメラを向けた中村綾緒、自宅のベランダで「きゅうり」を撮影した野口里佳の写真には、死を潜り抜けた生の輝きが、画面に溢れ出る「光」として写り込んでいる。単独で山中を歩き回り、篩で濾すように「静けさ」を掴み出してくる髙﨑紗弥香の作品には、さらに大きく成長していく可能性を感じる。生と死の交錯を写真に刻み込む野村恵子の新作「SKIN DIVE」も、次の展開が期待できそうだ。「見てよかった」と思う展示は、じつはそれほど多くないが、この展覧会は確実にそのひとつだ。今年の写真展の最大の収穫となるかもしれない。

2020/08/24(月)(飯沢耕太郎)

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