artscapeレビュー
木邑旭宗「DRIFTERS」
2020年09月01日号
会期:2020/07/25~2020/08/09
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
海辺に打ち上げられた漂流物は、写真の被写体としては珍しいものではない。ビーチを歩いていると、プラスチックや発泡スチロールや各種のネットなどの廃棄物がどうしても目についてくるからだ。多くの場合、それらは自然と対比され、現代文明の象徴といったネガティブな意味合いを帯びて描かれることが多い。だが、木邑旭宗(きむら・かつひこ)が、2016〜20年に千葉県・九十九里浜、静岡県・下田、長崎県・壱岐などで撮影し、今回、コミュニケーションギャラリーふげん社で展示した「DRIFTERS」には、環境問題を告発するような視点は感じられない。漂流物たちは、穏やかで広々とした海辺の空間で、気持ちよく自足しているように見えてくる。
木邑は元々、ニューヨークでデザイナーとして仕事をしていた頃から、コニーアイランドやロングビーチの海岸に足を運ぶことに、心の安らぎを覚えていたのだという。今回のシリーズもその延長上にあることは明らかで、結果として、ありそうであまりない海辺の光景の写真シリーズになった。木邑は展覧会のリーフレットに、「私は、海が織りなす自然と人工物のハーモニーを発見すると小さな喜びを感じます」と書いているが、まさにそういう写真だと思う。その「自然と人工物のハーモニー」を、観客もまた木邑とともに味わうことができる。写真展には漂流物以外の作品も何点か出品されていたが、それらの波や海鳥の写真にも、彼の「小さな喜び」が息づいていた。
2020/08/02(日)(飯沢耕太郎)