artscapeレビュー

福井県年縞博物館、若狭三方縄文博物館

2020年08月01日号

[福井県]

法事で福井に足を運び、以前から見学したかった内藤廣の《年縞博物館》(2018)に立ち寄ることにした。途中の乗り換えでは、電車の本数が少なかったため、思いがけず、敦賀の豊かな建築文化を堪能することにもなった。街の新しい顔となる千葉学による敦賀駅の交流施設《オルパーク》(2014)と《敦賀駅前広場》(2015)のほか、巨大なジオラマを展示する《赤レンガ倉庫》(1905)、昔の姿が再現された《鉄道資料館》、古典主義を逸脱するユニークな細部をもつ《敦賀市立博物館/旧大和田銀行本店》(1905)などを体験した。また松本零士の『銀河鉄道999』をモチーフとした彫刻群も、印象に残った。


交流施設オルパークから駅前広場を見る



《敦賀市立博物館》


さて、敦賀駅からJR小浜線で約30分。三方駅からタクシーに乗って5分ほどでようやく縄文ロマンパークにある目的地の《年縞博物館》に到着する。これは非の打ち所がない名建築だった。積雪、増水、年縞という特殊な展示物、木を使ってほしいという地域の要望、構造と意匠のバランス、異なる素材の組み合わせなどを考慮しながら、合理的な手続きを経た設計プロセスの結果、素直に導かれた、ここにしかない洗練されたデザインである。箱としての建築デザインだけでなく、展示デザインに加え、川と湖に隣接する景観を生かしたランドスケープ的な外構も秀逸である。とりわけ奇蹟的に成立した自然の環境から7万年かけて湖底に蓄積された年縞を展示する細長い2階の展示室は、展示の内容と空間が見事に一致している。また水辺への眺望や、端部に配されたカフェも素晴らしい。これまでも島根、三重、富山、宮崎など、地方の建築において、内藤はその力量をいかんなく発揮してきた。



《年縞博物館》の外観



《年縞博物館》2階の展示室



《年縞博物館》の端部にあるカフェ


《年縞博物館》の向かいには、横内敏人が設計した大胆な造形の《若狭三方縄文博物館》(2000)がたつ。巨木の森をイメージしたコンクリートの円筒が緑の丘から飛びだす、インパクトのあるポストモダン的な外観をもつ。いったん、登ってから館内に入り、それから降りて、展示をめぐるという構成だ。なお、細部のデザインに注目すると、《ロンシャンの礼拝堂》や《ラ・トゥーレット修道院》など、後期のル・コルビュジエを彷彿とさせるのが興味深い。つまり、縄文とル・コルビュジエの出会いである。


《若狭三方縄文博物館》の外観



《若狭三方縄文博物館》の内部

福井県年縞博物館 公式サイト:http://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/

若狭三方縄文博物館 公式サイト:https://www.town.fukui-wakasa.lg.jp/jomon/

2020/07/18(土)(五十嵐太郎)

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