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熊本城見学通路、熊本市現代美術館、熊本草葉町教会、オモケンパーク

2020年10月15日号

[熊本県]

熊本に日帰りで出かけ、日本設計が手がけた《熊本城見学通路》を「見学」した。2016年の震災で熊本城が被害を受けたことから、現在、内部に入ることができない。そこで修復中の城を外から見学するための通路である。建築のメディアなどでは、カッコいい俯瞰や見上げの写真が紹介されているが、実際、現地を訪れると、当然ながら、そのような見え方を追体験することはできない。だから、ダメというわけではない。なにしろ、これは城を見るための構築物であり、それ自体が目立ってはまずいだろう。あくまでも脇役に徹しなければいけない。


日本設計が手がけた《熊本城見学通路》


2016年の震災で崩れた熊本城の石垣

もっとも、思いがけず楽しめたのは、空中を散歩するような体験だった。熊本城自体は、すでに明治時代に焼失しており、再建されたものである。むしろ、文化財として重要なのは、城壁やまだ地面の下に眠っているかもしれない遺構だ。したがって、杭を打つなどの工事はできず、コンクリートの置き基礎としたり、通路がカーブする部分ではリングガーダー構造を採用するなど、通路を支えるデザインも工夫されている。


空中を散歩するような《熊本城見学通路》


通路のカーブにはリングガーダー構造が採用されている

商業施設の上部に入る《熊本市現代美術館》は、企画展が開催されていないタイミングに加え、コロナ禍ということもあり、内部はとても静かだった。初めて訪れた木島安史による《日本基督教団 熊本草葉町教会》はコンクリートの箱に対し、正面のファサードに巨大な金色の十字架が立つ。内部に入ることはできなかったが、独特の色使いやオブジェ的なディテールは、プレチニックを想起させた。


《熊本市現代美術館》


木島安史《日本基督教団 熊本草葉町教会》

その後、震災で空き地になった商店街の一角に挿入された、矢橋徹による《オモケンパーク》に立ち寄り、カフェで過ごした。アーケード街に面し、両側は目一杯までビルが立っているのに対し、ここはぽっかりと穴が開きつつも、存在感のある小さな構築物をぽつんと置く。店舗の背後の庭やルーフバルコニーなど、屋外の空間も楽しむことができる。こうした開放的かつ余裕のある空間の使い方は、東京の都心では不可能であり、地方都市ならではかもしれない。ここでは、マルシェや坂口恭平らのイヴェントなども行なわれるという。


矢橋徹《オモケンパーク》

2020/09/17(木)(五十嵐太郎)

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