2020年10月15日号
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artscapeレビュー

mimacul『Katastroke』

2020年10月15日号

会期:2020/09/25~2020/09/27

THEATRE E9 KYOTO[京都府]

ダンサー・文筆家の増田美佳が主宰するユニット、mimacul。韓国、日本、インドネシアの伝統舞踊の踊り手3名と増田自身が出演する本作は、受け継がれてきた「型」の習得である伝統舞踊と、「型」を否定し個人的身体から出発するコンテンポラリーダンスとの対比や対話をテーマとしている。

本作の構成はシンプルで、金一志(韓国舞踊)、若柳吉寿扇(日本舞踊)、佐久間ウィヤンタリ(ジャワ舞踊)、増田(コンテンポラリーダンス)が順番に一人ずつ登場し、名前、ダンスの特徴、踊り始めた年齢や動機、ダンスで一番大切にしていること、忘れられない思い出、やめようと思ったことがあるか、なぜこの国にいるのかなどの質問に答え、基本的な型や文化的背景について簡単に説明したあと、10分ほどの短いソロを見せる。赤、青、黄、白のカラフルな韓服に身をつつみ、太鼓をリズミカルに打ち鳴らしながら、小刻みなステップと下半身を上下させる跳躍を見せ、躍動感にあふれた金一志の踊りは、農村での豊作祈願がベースだという。



[撮影:金サジ]


対照的に、波文様を裾にあしらった黒い着物で、三味線と唄にのせて「青海波」を踊る若柳吉寿扇は、腰をぐっと落とし、扇子も駆使した手振りが多い。バルーンパンツに鮮やかな腰の飾りや輝くティアラを付けた佐久間ウィヤンタリは、ジャワ舞踊の特徴であると話す「水が流れるような」優雅な動きと、繊細な指の表情で魅了する。



[撮影:金サジ]


一方、最後に登場した増田は、Tシャツにスパッツというラフな格好。コンテンポラリーダンスには型やメソッドの共有がなく、自分の今の身体と向き合って考え、身体の数だけダンスがあると言えること、即興を重視していることを話し、大学時代の授業で受けた「床に寝そべり、15分かけてゆっくり立ち上がる」というワークを実演してみせる。

胎児のように床に丸まり、超スローで体勢を変化させ、俯いた上体を重力に抗うように起こしていく増田。やがてほかの3人が姿を現わし、ウィヤンタリがジャワ語と日本語で太陽や月、鳥や動物の名前を告げ、金が手渡したケンガリ(円形の平たい金属製打楽器)は満月が夜空を渡るように動かされ、増田は自身に命を吹き込むようにTシャツの中に息を吹き込み、その深呼吸の音が響く。夜明け、再生、産まれ直した身体。立ち上がった増田と3人は、対面した相手と鏡像のように向き合い、互いの特徴的な動きを受け渡し、受け取りつつ、増田の「即興」という要素を加えて融合させ、新たな流れを生み出し、今ここで、この4人でだからこそできるダンスを形づくっていく。それぞれが個としてその場に立ち、共存し、各自の動きの要素を余韻として残しつつ、境界が曖昧になった先に、「今、ここに、私のこの身体がある」という力強い宣言で締めくくられた。



[撮影:金サジ]


(アジアの)伝統舞踊とコンテンポラリーダンス、その対話をドキュメンタリーの手法で作品化する例としては、チョイ・カファイの『ソフトマシーン』がある。カファイとの対話を通して、伝統舞踊の踊り手が基本的な考え方や型、人生について自身の言葉で語り、ソロを見せるなかに、グローバルなアート市場で「商品」として消費される「アジアの伝統」、近代国民国家が抱える多様な地域性、ジェンダーやセクシュアリティと古典舞踊などの問題が照射され、戦略的な批評性が光る作品である。ただ、本作を見終えて振り返ると、「カファイと各踊り手」という1対1の閉じた関係に終始し、踊り手同士の(身体的)対話が見られないことが残念に思われた。

一方、本作は、身体的対話へと開かれていたが、個々の踊りや語りが垣間見せる人生の一端の提示に留まっていた点が惜しまれる。それぞれの「伝統舞踊」は、農村での祭り、宮廷文化、儀礼やコミュニティ、物語や詩歌の伴走など文化的・歴史的文脈から切断された状態でここ・劇場内にあり、ダンス単独で成立するものではない。「文脈からの切断や移動」は、とりわけウィヤンタリと金の場合、生まれ故郷から離れて日本で暮らす彼女たちの移民やディアスポラとしての人生でもある。さらに、より歴史的な射程で見れば、無垢なる「ダンス」と無縁ではない侵略戦争との関連が浮かび上がってくる。舞踊家の中国戦線や東南アジアへの従軍慰問、「アジア各地の諸民族の踊り」を「帝国」の文化的領土に包含しようとした植民地的領有。

Kata(型)の有無から出発し、Stroke(踊る身体の描く線/個人史の軌跡)の提示をとおしたその先に、戦争や紛争、近代化、植民地化、政治体制の転換などの「カタストロフ」による伝統舞踊の断絶や変容、そして個人的身体と接続した歴史の相を俯瞰的に見通す視座があれば、本作はさらに深化するのではないか。ユニットのウェブサイトでは、本作出演者以外にも(ときに出身国籍や地域と異なる)伝統舞踊の踊り手へのインタビューが公開されており、ワークインプログレスとしてプロジェクトの継続が期待される。

公式サイト:https://mimacul.com/

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