artscapeレビュー

普後均、魚本勝之「at the same time」

2021年04月15日号

会期:2021/02/27~2021/03/14

MEM[東京都]

普後均と魚本勝之は、2018年に面白い写真のプロジェクトを開始した。それぞれ自分がいる場所で、同じ時刻に写真を撮るという試みである。遠く離れた場所、たとえば稚内と沖縄、シエナと東京でシャッターを切る場合もあるし、国内の比較的近い場所で撮る場合もある。いつ、どこで撮影するかは、ほとんど思いつきと偶然の産物だ。そうやって撮りためた写真は、2020年春までに2枚1組で40点ほどになった。今回のMEMでの二人展には、そのうち12点が展示されていた。

コンセプトは単純だが、結果はなかなか含蓄が深いものになった。DMに使った、魚本が台風で倒れた樹を東京で、普後が窓越しの樹木をボローニャで撮影した写真のように、微妙なシンクロニシティを感じさせるものもある。だが大部分は、まったく関係がない2つの場面が写っているだけだ。とはいえ写真を見る者は、二人の写真家がなぜその場所にいて、この眺めを撮ったのかと疑問に思うのではないだろうか。写真を撮るという行為そのものに潜む「魔」のようなものが、ふと顔を覗かせているようにも見えてくる。魚本は元々普後が主宰するワークショップで写真を学んだということだが、グラフィック・デザイナーとして経験を積んでおり、その撮影の技術はかなり高い。二人の写真のクオリティの高さ(的確な構図、シャッターチャンス)が、このプロジェクトの支えになっていることは間違いない。

まだ続きそうではあるが、逆にあまり長く続けると、二人の写真のこの絶妙なバランスが崩れてしまいそうでもある。今回の展覧会をひとつの区切りとして、別なやり方を考えてみてもいいかもしれない。

2021/03/05(金)(飯沢耕太郎)

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