artscapeレビュー
映里『「饗宴──愛について」1996-2000』
2021年04月15日号
発行所:赤々舎
発行日:2021/04(予定)
映里の名前は、中国人のパートナーの榮榮との写真作品制作ユニット、榮榮&映里(RongRong & inri)の一人としてよく知られている。2000年から共同制作を開始した二人の作品は、世界各地で展示されて高い評価を受ける。2007年には、北京郊外に中国初の現代写真芸術センター、三影堂撮影芸術中心を立ち上げて、国際的な展覧会や芸術祭を企画・運営していった。本書には、その映里がまだ日本で鈴木映里として活動していた1996-2000年制作の4作品、「セルフポートレート」「MAXIMAX」「GRAY ZONE」「1999 東京」が収録されている。
それらを見ると、20歳代の彼女が、内から溢れ出る衝動、エナジーを受け止める器として写真という表現手段に出会い、その中に没入していったプロセスがよくわかる。裸になり、駆け回り、赤い絵具をぶちまけ、布に絡まる──そのようなパフォーマンスを基調とした表現が全面に打ち出されており、コントラストを強調した黒白印画、粗粒子、ソラリゼーションなどの手法を多用することで、身体性、物質性への強いこだわりが貫かれている。むろん、のちの榮榮&映里の、静謐で高度な画面構成の作品と比較すれば、完成度はかなり低く、習作の段階にとどまっているように見えなくもない。だが、このようなパッショネートな表現意欲を、緊張感のある画面に封じ込めることで、後年の彼らの作品が成立していったことがよくわかった。
彼女がこれらの初期作品をあえて公表したのは、コロナ禍の状況において、「写真は愛を知るための唯一の方法で、愛は写真が生まれるための唯一の観念」と思いつめていた1990年代の初心を、もう一度取り戻そうと考えたためだろう。榮榮&映里としての発表も一区切りついたいま、ふたたび、ソロ活動を開始する可能性もあるのではないだろうか。
2021/03/18(木)(飯沢耕太郎)