artscapeレビュー

田代一倫「2011-2020 三陸、福島/東京」

2021年04月15日号

会期:2021/03/04~2021/03/28

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

田代一倫が2013年に刊行した『はまゆりの頃に 三陸、福島 2011〜2013年』(里山社、2013)は印象深い写真集だった。写真集には、田代が震災後に東日本大震災の被災地で出会った人たちに声をかけ、撮影した写真が、短いコメントとともに453人分掲載されている。実際に撮影したのは1200人以上とのことだが、被写体となる人たちとしっかりとコミュニケーションをとって、撮る側と撮られる側との非対称性を注意深く回避している。たとえば、仙台市の繁華街で出会ったホストや夜の街の女性も撮影することで、「被災者のポートレート」という枠組みにおさまらないように配慮されていた。

田代はその後2014年から、東京の住人たちを同じような手法で撮影していく。だが、その「『東京』2014-2020」のシリーズは、誰をどのように撮るかに悩んで紆余曲折し、田代自身も2019年に躁鬱病の症状がひどくなって入院することになる。コロナ禍も、撮影を巡る状況をより困難なものにした。田代が展覧会に寄せた2020年8月の日付がある長文のテキストを読むと、「コロナとも付き合う、社会とも付き合う、写真とも付き合う、病気とも付き合う」といった多方向に引き裂かれた状態で、困難な撮影を続けている彼の姿が浮かび上がってくる。

それでも、今回「はまゆりの頃に」とともに展示された「東京」シリーズは、大きな可能性を持つポートレート作品となりつつあると思う。2020年以降、カメラをデジタルに変えたことで、人物と正対してその全身と周囲の光景を画面におさめるという、それまでの撮影のスタイルからはみ出すものも出てきた。だが、人が写っていなかったり、ブレたり、距離感が狂ったりした写真も含めて、田代の写真撮影の行為のリアリティがひしひしと伝わってくる。また2階の会場の、ポートレートと路上の番地表示(東駒形三丁目、歌舞伎町2-33、千駄ヶ谷三丁目など)の写真をカップリングして展示する試みも面白い。地名とその住人との関係をいろいろ想像することができるからだ。まだ撮影は続きそうだが、この「東京」シリーズはぜひ完結させてほしいものだ。

2021/03/10(水)(飯沢耕太郎)

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