artscapeレビュー

西條茜「胎内茶会」

2021年04月15日号

会期:2021/03/23~2021/03/31

京都市営地下鉄醍醐車庫[京都府]

元小学校をリノベーションした京都芸術センターでは、建物内にある茶室を活かし、美術作家、舞台芸術や伝統芸能のパフォーマー、研究者、建築家などが席主をつとめてもてなす「明倫茶会」を2000年より継続的に開催している。コロナ禍で開催ができないなか、芸術家支援事業の一環として、オンラインで参加する「光冠茶会(ころなちゃかい)」が2月~3月に開催された。参加者には、席主が選んだお茶とお菓子が事前に届き、各会場からのライブ配信を視聴しながらそれらを味わうというものだ。本評で取り上げるのは、そのうちのひとつ、陶芸家の西條茜による「胎内茶会」。ただし、オンライン茶会ではなく、配信会場である京都市営地下鉄の醍醐車庫で開催された個展のほうを取り上げる。

受付で検温や消毒を済ませ、コンクリートに囲まれた薄暗く狭い階段を降りていく。降りた先に広がるのは、地下の広大な空間だ。そこに配された西條の陶芸作品は、多彩な釉薬が重ねられた艶やかな表面と、ラッパ状の口や穴をいくつも持つ有機的な多孔体や管構造をしており、奇妙な金管楽器や原始的生物、人体の臓器のようにも見える。その展示空間に、鈍い金属音の残響が響き、巨大な空洞を満たしていく。この音はオンライン茶会でのパフォーマンスの記録映像から流れており、パフォーマーたちが西條の作品に実際に息を吹き込んで、楽器のように音を鳴らしている。それは、楽器の演奏であると同時に、文字通り呼気を吹き込んで生命を与える行為であり、作品を抱きかかえるように、あるいは作品の中に身を埋めるようにして息を吹き込むパフォーマーたちは、硬いはずの作品と境界が溶け合って一体化しているようにも見えてくる。



[撮影:守屋友樹]



[撮影:守屋友樹]



[撮影:守屋友樹]


都市の地下に穿たれた巨大な空洞である地下車庫の空間、内部が空洞である陶磁器、呼気が音となって排出される管楽器、人体もまた口から始まって肛門へと至る消化器官が体内を貫く一本の管である。そうした何重もの入れ子構造や転換の作用が体験の強度を支える本展において、鑑賞者は自身の身体への反省的な意識へと導かれる。そこに、「オンライン企画の付随物」ではなく、本展がリアルの場において開催・公開されたことの意義がある。

同時に、「生でパフォーマンスを体験したかった」と強く感じられた。たとえば、複数の穴や開口部を持つ作品では、どこから息を吹き込むのか、あるいは1人で息を吹き込む場合と2人以上で行なう場合では、音が違うのか。どのくらい音程的な変化が付けられるのか。作品の配置とポリフォニーの形成は、どのような関係を結びうるのか。造形と聴覚体験を組み合わせた「パフォーマンス作品」としての発展可能性も感じられる個展だった。

西條茜:https://akane-saijo.jimdofree.com

2021/03/30(火)(高嶋慈)

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