2021年09月15日号
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artscapeレビュー

ヒコーキと美術

2021年04月15日号

会期:2021/02/06~2021/04/11

横須賀美術館[神奈川県]

墓参りのついでに横須賀美術館に寄ったら、こんな展覧会をやっていた。横須賀といえば「海軍」「軍港」のイメージが強く、ヒコーキよりフネだろうとも思うが、「フネと美術」だったら意外性がないから行かなかったでしょうね。練馬区立美術館でやってる「電線絵画」と同じで、やっぱり「ヒコーキと美術」というミスマッチが目を引くのだ。試しにこの美術館の前に立つと、浦賀水道を行き来するおびただしい数の船舶が見えるが、少し視線を上げると、遠く羽田空港を発着する飛行機が目に入ってくる。おそらくコロナ以前はもっとひっきりなしに飛び交っていただろう。それだけではない。横須賀市北部の追浜は海軍航空発祥の地であり、ライト兄弟の発明から10年もたたない1912年に水上機の初飛行が行なわれたという。意外にも、横須賀は飛行機とも縁が深かったのだ。

なるほど、横須賀と飛行機の関係はわかったが、飛行機と美術の関係はそんなに深くないんじゃないか。だいたい飛行機が飛び始めた20世紀初頭から美術は抽象度を増していくので、飛行機を表現した美術というのは船を描いた絵よりもケタ違いに少ないはず。なにがあったっけと思い出しても、レオナルドの素描はさておき、イタリア未来派はスピードを礼讃している割に自動車止まりだし、古賀春江が描いたのは飛行船だっけ? そういやパナマレンコも飛行船をつくってたな、程度。とても展覧会を組み立てられるほど作品が思いつかない。と思って入ってみたらびっくり。戦前、恩地孝四郎が飛行機に乗せてもらった体験を描いた版画集『飛行官能』をはじめ、戦闘機をあしらった日本工房によるグラフィックデザイン、戦費調達のためのポスターなどが続き、作戦記録画の展示となる。そうか、戦争画があった。

新井勝利の「航空母艦上に於ける整備作業」3部作をはじめ、向井潤吉《影(蘇州上空)》、清水登之《江南戦場俯瞰》、佐藤敬《クラークフィールド攻撃》、石川寅治《南太平洋海戦》など、戦闘機や空爆シーンを描いた戦争画が10点以上。こんなところでこんなにたくさんの戦争画と再会するとは思わなかった。圧巻は、機体が半透明の戦闘機をほぼ実物大に描いた川端龍子の《香炉峰》、そして、東京美術学校図案部の卒業制作として制作された久保克彦の「図案対象(5点組)」だ。久保はこれを完成させてから陸軍に入隊し、中国に出征して戦死した。中央の大画面には撃墜されるイギリス軍のスピットファイアーが大きく描かれている。これは作戦記録画ではないが、広い意味で戦争画に含まれる。

戦後では、特攻隊に配属された経験を持つ池田龍雄の《僕らを傷つけたもの 1945年の記憶》、飛行機や蒸気機関車などを偏愛する中村宏の《砂川五番》《B727》《プロペラ》などが並ぶ。最後は横須賀で開発された日本初のロケット戦闘機「秋水」の紹介で、八谷和彦の企画した《秋水AR》も公開している。飛行機といってもスピード感や快適性といった近代的なテクノロジー賛歌ではなく、戦闘機、空襲、基地闘争など負の面を強調している点に共感を覚えた。今度はぜひ「海軍と美術」をやってほしい。

2021/03/14(日)(村田真)

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