artscapeレビュー

熊本県八代市の建築

2022年02月15日号

[熊本]

数年ぶりの熊本駅は、再開発のプロジェクトによって、だいぶ様変わりしていた。佐藤光彦による《熊本駅西口駅前広場》(2011)はそのままだったが、まず駅舎が建て替えられ、安藤忠雄による湾曲した黒いファサードが印象的な新駅舎(2019)が登場している。また西沢立衛の大きなしゃもじのような屋根がかかった《熊本駅東口駅前広場》(2011)も、もともと暫定形とはいえ、強い存在感は放っていたが、もっと細くうねる、鏡面効果によってまわりの風景を映しだす薄い屋根に置き換えられた。なるほど、以前の力強いデザインだと、駅舎のかたちと喧嘩するだろうから、むしろ現在は引き立て役としての建築になっている。また隣の日建設計による《アミュプラザくまもと》(2021)は、室内に垂直の立体庭園が展開し、迫力がある大きな吹き抜けをもつ。



西沢立衛による旧広場



熊本駅と西沢立衛による広場



《アミュプラザくまもと》


熊本駅から電車に乗って、八代に移動し、伊東豊雄の《八代市立博物館未来の森ミュージアム》(1991)を久しぶりに訪問すると、ちょうど開館30周年を祝っていた。今では世界各地にプロジェクトを抱える建築家になったが、実は彼にとって初の公共施設であり、ここから快進撃が始まった記念すべき作品だ。軽やかな屋根と手前の丘のようなランドスケープのデザインで知られているが、あらためて下の展示空間を観察すると、間仕切りといっても透明なガラスを使い、ワンルームにも見え、特殊な什器が並ぶユニークなものである。おそらく、この博物館のために設計された特別仕様の什器は、日本にお金があった時代の展示デザインといえるかもしれない。エントランスや常設展示室では、妙見祭の行列や 亀蛇 きだ を紹介していたが、これがユネスコの無形文化遺産に登録されたことを契機に、隣に祭りの笠鉾などを保管・展示する施設としてつくられたのが、伊東豊雄建築設計事務所出身の平田晃久の《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》(2021)である。これはくまもとアートポリス事業のラインナップには入っていないが、現代のデジタル技術と木材を使う伝統的なかたちを融合させて、うねうねした屋根をはりめぐらせる。ちなみに、DOCOMOMO Japanによって、重要な建築に選定された芦原義信の《八代市厚生会館》(1962)も隣接し、博物館とともに、お祭りでんでん館を挟む。正確にいうと、本館と同じく両端部に斜めに反り上がった屋根をもつ厚生会館の別館跡地にでんでん館が建設されている。ともあれ、このエリアでは、奇しくもそれぞれ昭和/平成/令和の時代を反映した三つの屋根の違いが観察できるのだ。



《八代市立博物館未来の森ミュージアム》



《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》



《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》



芦原義信《八代市厚生会館》

2022/01/26(水)(五十嵐太郎)

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