artscapeレビュー

奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム

2022年02月15日号

会期:2022/01/15~2022/04/10

東京都庭園美術館[東京都]

本展タイトルを最初に見たとき、何やらすさまじい印象を受けた。サブタイトルが「装うことへの狂気」である。しかし実際に展示を観ていくうちに、企画の面白さに改めて気づき、その意図に非常に納得できた。モードが奇想であるのは、実はいまに始まったことではない。中世の頃から、いや、それより前から洋の東西を問わずあったのだ。例えば西洋のファッションに欠かせなかったコルセットがそのひとつ。女性のウエストを細く締め上げる行為は、冷静に考えれば尋常な発想ではない。同じく中国の伝統的な纏足もそのひとつだ。女性の足を強制的に小さくしようとする行為は痛ましさを感じる。いずれも(男性から見て)女性を理想的な身体のラインにしたいという欲望が根底にあり、それが行き過ぎた矯正となって現われた文化や風習である。


コルセット、1880年頃 イギリス、神戸ファッション美術館蔵


本展はそうしたモードの奇想さを20世紀の芸術運動、シュルレアリスムの理念に重ね合わせて検証した点がユニークだ。シュルレアリスムが表現しようと試みた無意識や夢、心の奥に潜む欲求などは、確かにファッションに表われやすい。日本の花魁の装いもその一例として紹介されていて、そうかと思い当たった。平成の頃に流行ったコギャルファッションもきっとその流れなのだ。あの独特な化粧や髪型、服装は、彼女らなりに美を追い求めるうちに表面化した形に過ぎない。それはシュルレアリスムの絵画と同じだったのだ。


展示風景 東京都庭園美術館[撮影:大倉英揮(黒目写真館)]


毛髪で編まれたドレスや、リアルな鳥があしらわれた帽子、目玉が大きくプリントされたワンピース、かかとのない厚底靴など、展示作品は古典ファッションからコンテンポラリーアートまで幅広く網羅されていた。こうして一度に見渡すと、人はいつの時代も装うことへの執念を絶やすことがないのだなと感じる。結局、それが生きる原動力となっているのだろう。シュルレアリスムの知識がなくとも、しっかりとした解説により十分に楽しめる展覧会となっている。


舘鼻則孝《Heel-less Shoes (Lady Pointe) 》(2014/個人蔵)[撮影:GION]



公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/220115-0410_ModeSurreal.html

2022/01/22(土)(杉江あこ)

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