artscapeレビュー
初沢亜利 写真展「匿名化する東京2021」
2022年02月15日号
会期:2022/01/11~2022/01/30
Roonee 247 fine arts[東京都]
あと10年くらい経ったら、我々はコロナ禍を振り返り、「あのときは大変だったよね」としみじみするのだろうか。2020〜2021年は(おそらく2022年も)誰にとっても忘れられない年になった。後にこの時期の写真や映像を見返した際、皆の顔に一斉にマスクが着いていることをどう捉えるだろうか。これまでの街の風景を一変させたもの、それは紛れもなくマスクだったに違いない。
コロナ禍が始まって以来、私はずっとそんなモヤモヤした気持ちを抱えてきたのだが、そのモヤモヤをクリエーションとして鮮やかに表現していたのが本展だった。それはコロナ禍の東京を舞台に街行く人々の姿を追ったドキュメンタリーで、写真家の初沢亜利は「写真は現在を歴史に置き換える作業だが、コロナ禍東京の自画像がどのように未来を予見するか、撮影者にとっても興味深い」とメッセージを寄せていた。展示写真はなんというか生々しく、アグレッシブで、モヤモヤがいっそうザワザワした気持ちにもなった。コロナ禍がまだ現在進行形のせいだろうか……。タイトルの「匿名化」とは、言うまでもなく皆の顔に一斉にマスクが着いていることを指す。晴れ着姿の新成人たちが笑顔で撮る記念写真もマスクであれば、桜の下でも初詣でもマスク、デモでも選挙活動でもマスクである。いつの間にかマスクが日常化してしまった世の中を記録に残しておきたいという衝動は、クリエーターとして然るべきなのだろう。
また、続くタイトルの「東京2021」は別の意味でも記憶に残る年になった。歴史上、初めてパンデミック下でオリンピックが開催されたからだ。開催の是非を巡って翻弄されたのは、紛れもなく東京に暮らす我々市民だった。展示写真はその記憶さえもしっかり留めていた。「もうカンベン オリンピックむり!」と窓ガラスに貼り紙して訴えた病院の上の高架を、オリンピックマスコットがあしらわれた電車が走り行く皮肉な瞬間。人気のない国立競技場から盛大に上がる花火。市民の痛烈な叫びや虚しさ、やるせなさといったものがそこには漂っていた。
公式サイト:https://www.roonee.jp/exhibition/room1-2/20211124184908
2022/01/29(土)(杉江あこ)