artscapeレビュー
瀧弘子「天体」
2022年02月15日号
会期:2022/01/25~2022/01/30
KUNST ARZT[京都府]
自らの肉体を駆使したパフォーマンスや絵画作品によって、アイデンティティの輪郭と多重的な分裂、「(男性の視線による)理想化された女性身体」への疑義をときにユーモラスに提示してきた瀧弘子。例えば、過去作品のインスタレーション《写身─うつしみ》では、暗い展示空間の中、観客が洞窟探検のようにライトを向けながら進むと、床や壁に置かれた鏡に光が反射し、乱舞する。鏡の表面には、瀧が自身の顔や裸身を映しながら輪郭線をなぞったドローイングが描かれており、その像は、観客のライトの動きに従って、揺れながら壁や床に投影=複製される。「現実の複製」「光の反射」という鏡の機能をうまく利用し、自己肯定とアイデンティティの不確かな多重性を示した。また、鏡に身体の輪郭線を「映す」/「写す」/「移す」パフォーマンスも行なわれ、瀧自身の豊満な裸身は、規範化された女性美への強烈な抵抗を示してもいた。
本個展では、自らの身体を「天体観測」になぞらえる試みが、写真、パフォーマンス、版画作品によって展開された。皮膚の表面に散らばるホクロやシミを「星」に見立て、線でつなぐことで「星座」を形づくっていく。その行為は、アイライナーやリップペンシルで線を引く化粧的行為を思わせると同時に、線の連なりは刺青にも見えてくる。瀧は、ホクロやシミ、すなわち「美白で除去したり、隠すべきもの」としてネガティブに価値づけられるものを、「化粧」に擬態した行為によって、刺青という装飾、別の美的価値へとポジティブに転換するのだ。
また、もうひとつのパフォーマンスの記録映像では、暗闇の中、手に掲げたライトを動かしながら、ゆっくりと回転する瀧の裸身が映し出される。うつろう光に照らし出される身体の凹凸はクレーターのようで、月の満ち欠けを連想させる。輝く星座を持ち、天体として光を放つ身体。ただしその「光」は、誰かに投げかけられるのではなく、自身の手で掲げるものなのだ。
2022/01/30(日)(高嶋慈)