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artscapeレビュー

徳島市と神山町の建築

2022年05月15日号

[徳島県]

徳島市の中心部では、いくつかの建築をまわったが、あまり知られていない近代の《三河家住宅》(1928)が抜群に面白い。ドイツに留学した医者が、現地で同郷の木内豊次郎と知り合い、帰国後につくった家である。鉄筋コンクリート造の住宅としてかなり早い事例だが、古典主義の独特な解釈、表現主義風のモチーフ、ガーゴイルなどさまざまな要素を組み合わせ、しかも日本ではめずらしいグロッタ風のでかい岩屋まで付いて、きわめて個性的な造形だった。同市では、他にも列柱とアーチを反復する《旧第一勧業銀行徳島支店》(1929)、安藤忠雄らしい《WITHビル》(1985)、西山卯三によるやや大味の《あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)》(1971)などがある。また川辺の空間が整備されており、鈴木禎次による《国際東船場113ビル》(1932)のリノベーションもうまく接続していた。見るべき現代建築は少ないように思われたが、むしろ市内から自動車で約40分ほどの距離にある山間部の神山町に2010年代から新しいタイプのプロジェクトが次々と登場している。



《三河家住宅》




《あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)》




《国際東船場113ビル》


以前、名古屋で中華を食べていたら、後の席にいるサラリーマンが話題にしていたのが聞こえてきた。そのくらい、すでに神山町の試みは有名だろう。アーティストのレジデンスを契機に街づくりが動きだし、IT系の企業のサテライト・オフィスが設置され、都会からの新規の移住者も増えている。長屋の一角を改修した《ブルーベアオフィス神山》(2010)、元裁縫工場の《神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス》(2012)、民家を改造した《えんがわオフィス》(2013)、宿泊施設の《WEEK神山》(2015)など、若手のバスアーキテクツ(後にBUSと改名)が設計に関わり、彼らの活動は第15回 ヴェネチア・ビエンナーレ 国際建築展(2016)の日本館でも紹介された。BUS以外の建築もあり、例えば、神山町のあす環境デザイン共同企業体による《神山町大埜地の集合住宅》(2021)は、移住者の受け入れを行なう。なお、地産の食材を使うレストランのかま屋(2017)は、しだれ桜でも知られる神山町の花見のシーズンだったとはいえ、事前予約がなければ入店できないほど混んでいたが、確かにランチは美味かった。



《えんがわオフィス》




《WEEK神山》




《神山町大埜地の集合住宅》




かま屋


2022/04/03(日)(五十嵐太郎)

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