artscapeレビュー

ロロ『ロマンティックコメディ』

2022年05月15日号

会期:2022/04/15~2022/04/24

東京芸術劇場シアターイースト[東京都]

ロロ『ロマンティックコメディ』(脚本・演出:三浦直之)が5月29日(日)までの期間限定でアーカイブ配信されている(このレビューでは同作の結末に触れているので注意)。4月に上演されたばかりの本作はロロ/三浦の新境地を示す作品だ。

舞台は丘の上に建つ本屋ブレックファストブッククラブ。店主のヒカリ(森本華)とあさって(望月綾乃)はその店でかつて働いていたあさっての姉・詩歌が遺した小説の読書会を不定期に開いている。詩歌のオンラインゲーム仲間だったとなり(大場みなみ)、店の常連で詩歌とも親しかった遠足(篠崎大悟)と瞼(新名基浩)、ある事情で店を訪れる寧(大石将弘)と麦之介(亀島一徳)。彼女たちは小説の話を、詩歌の話を、そして関係があったりなかったりするさまざまな話をする。


[撮影:伊原正美]


[撮影:伊原正美]


これまでのロロの本公演ではときに非現実的な設定も導入しつつ、舞台美術や衣装、俳優の言葉と身体によって跳躍するイメージが物語を紡いでいくタイプの作品が多かった。本作では舞台を書店のワンシチュエーションに限定し、劇中ではそれなりの時間が経過するものの基本的には淡々とした会話を通して物語は進行していく。テイストとしては本公演と並行して取り組んできた「いつ高」シリーズに近く、ロロとしての活動の幅の広さが本公演へと還元され、劇団としての成熟を見せたかたちだ。

一方、扱われているテーマは初期の作品から一貫してもいる。本作の中心にいるのは不在の詩歌であり彼女の遺した小説だが、詩歌との関係も小説との向き合い方も登場人物によってそれぞれ異なっており、詩歌や彼女の小説がひとつの像を結ぶことはない。初期の作品では主に男女間の片想いとして表現されていたこのような想像力は、本作ではより一般的な他者への思いへと拡張されている。


[撮影:伊原正美]


2021年10月に上演された前作『Every Body feat. フランケンシュタイン』でロロ/三浦は、タイトルの通りフランケンシュタイン博士と彼が生み出した怪物をモチーフに、他者の存在を自分勝手に解釈することの暴力性とその罪を描いてみせた。それは先行する作品を糧に、俳優の身体を媒介として演劇を創作すること(=怪物を創り出すこと)の暴力性と罪でもあっただろう。そう考えると、タイトルは演劇そのものを指すものとしても解釈できるだろう。フランケンシュタインは三浦自身だ。三浦は当日パンフレットに「死骸のような言葉しか書けなくなった」とさえ記していたのだった。

だが、それまでのロロのイメージを一新するダークファンタジーへの挑戦と創り手としての三浦の真摯な姿勢には感服しつつ、それでも私は『Every Body feat. フランケンシュタイン』という作品がこのタイミングで上演されたことにいまいち釈然としなかったのだ。なるほど、そこにはたしかに暴力と罪があるかもしれない。その自覚は重要だ。しかし、これまでのロロ/三浦の作品は、すでにその先を描いてはいなかっただろうか。創り手だけがそこにある思いを名指すことができると思うこともまた傲慢だ。それはいつだって受け手によって思い思いに受け取られ名づけられる。創り手であるよりも先にさまざまなカルチャーのよき受け手であった、そしていまもそうである三浦はそのことをよく知っているはずだ。


[撮影:伊原正美]


だから、『ロマンティックコメディ』の視点は受け手へと再び折り返している。小説の作者である詩歌は不在だが、読書会を通して生み出されたつぎはぎの詩歌像をヒカリやあさってが怪物と呼ぶことはないだろう。むしろ、そうして自分たちの知らなかった詩歌の一面を知ることで、ほかの人が詩歌の小説をどう読んでいたかを知ることで、彼女たちは詩歌とその小説に何度だって出会い直せるのだ。

物語の最後、偶然に店を訪れた白色(堀春菜)によって、詩歌が自身の小説をインターネット上の小説投稿サイトに投稿していたことが明らかになる。中学生の頃その読者だったという白色が店に置いてあった私家版の小説を買おうとすると、それまで求められるままに無償で詩歌の小説を譲っていたヒカリは、そのとき初めてその小説に値段をつけて売るのだった。おそらくその瞬間、ヒカリにとってはずっと詩歌の小説でしかなかったそれは独立した作品となり、同時に、ヒカリの知らない詩歌が存在していて、そのすべてを知ることが叶わないことが受け入れられたのだろう。それは少しだけ寂しく、しかしどこまでも前向きなことだ。


[撮影:伊原正美]


[撮影:伊原正美]


7月の末には早くも次回作『ここは居心地がいいけど、もう行く』の上演が予定されている。同作は昨年完結した連作「いつ高」シリーズのキャラクターが再び登場する作品。高校演劇のフォーマットに則った60分以内の上演時間などいくつかの制約のなかでつくられてきた同シリーズだが、今回は制約を取り払ったフルサイズの新作になるという。スケールアップした「いつ高」ワールドとの再会を楽しみに待ちたい。


ロロ:http://loloweb.jp/


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