2022年12月01日号
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artscapeレビュー

青山見本帖 ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」

2022年05月15日号

会期:2022/04/04~2022/05/06

青山見本帖[東京都]

人類史上で、紙は何のために生まれたのか。それは人が文字を記し、他者や後世に伝えるためである。つまり紙は文字を載せてこそ生きるものだ。本展を観て、そんな原点を見つめ直した。これは紙の専門商社、竹尾のショウルーム「青山見本帖」で行なわれた展示だ。タイトルに「読む紙見本」とあるとおり、文字で紙を紹介するユニークな内容だった。同社が販売する50種類の「ファインペーパー」に対し、文筆家のシラスアキコが50篇のショートストーリーを書き下ろし、それぞれの紙に印字して空間に展示するというインスタレーションが繰り広げられた。スペースデザインを手掛けたのは、シラスアキコも所属するCOLOR.である。ショートストーリーはいずれも短く、わずか2〜3文程度なので、物語のある断片を抜き出したかのような印象も受けるが、読みやすい軽やかな筆致で、独自の世界観がギュッと詰まっているので、まるで短編小説を読み終えたかのような爽やかな余韻を残す。空間に漂う紙1枚1枚に目を通しながら、そんな心地良さを味わった。


展示風景 青山見本帖


それにしても、おとぎばなしや詩、少女漫画、青春映画、SFといったさまざまな要素を持ったショートストーリーを、シラスはいったいどこから着想を得てふくらませたのだろう。解説を読むと、紙の風合い・色味・感触からだという。つるつるした紙、凹凸のある紙、透けるほど薄い紙、キラキラした紙など、確かに紙の個性はそれぞれに際立っている。色味も豊富だ。端に記された紙の名前も併せて見ると、ショートストーリーの世界観がグッと広がった。この展示は印字された紙の佇まいを見てもらうことがもともとの目的だと思うのだが、文字がその紙の個性に起因した物語になっているという二面性をはらんだ点が面白かった。


展示風景 青山見本帖


展示風景 青山見本帖


ひとつ残念だったのは、くり抜いた紙の形やレイアウトは変化に富んでいたのだが、書体だけ同一の丸ゴシック体を使用していた点だ。どうせなら、ショートストーリーに合わせたいろいろな書体を使ってみてほしかった。「読む紙見本」なのだから。しかし、そうすると煩雑な雰囲気になるといった判断で同一にしたのだろうかと想像する。


公式サイト:https://www.takeo.co.jp/news/detail/003679.html

2022/04/19(火)(杉江あこ)

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