artscapeレビュー
富岡町の展示施設
2023年02月01日号
[福島県]
久しぶりに福島県の被災地をまわり、双葉郡富岡町においていくつかの展示施設を訪れた。環境省の《特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」》(2018)は褒められたものではない。まず名称は再生・復興への想いを込めて「リプロデュース」をかわいくしたものを公募で選んだ名称だが、シビアな内容の展示と齟齬がある。それは妙に子ども向けにしたロゴや展示デザインも同じだ。おそらく、名称と雰囲気だけなら児童施設に見えるだろう。そして安普請の建築が最悪で、ごく一部に意匠的な操作は認められるが、まったく無意味な加え方だった。一方で、立ち寄ったときは残念ながら閉まっていた、民間の《ふたばいんふぉ》(2018)は、すっきりとした箱の建築である。外からのぞいても、パネル展示は見えなかったが、お酒も飲めそうなカフェが存在していることは興味深い。
衝撃的だったのは、事故を記録し、廃炉事業の全容を伝える《東京電力廃炉資料館》(2018)である。いや、あまりに場違いな雰囲気のデザインに腰を抜かした。補修中なのか、足場で包まれていたが、外観がキュリー夫人、エジソン、アインシュタインの生家を合体させたイメージのメルヘン建築だったからだ。もっとも、これはエネルギー館として1988年にオープンしたもので、「原子力発電PR館」として位置づけられた建築である。だが、311の原発事故を受けて、2018年から廃炉資料館として再出発した。なるほど、歴史建築を引用するポストモダンのデザインが華やかなりし時代に建設されたとはいえ、エネルギー館はなんとも能天気である。それが現在の深刻な展示内容に凄まじいズレを生じさせたわけだが、むしろこの外観は事故前の雰囲気も伝えるという意味で保存されなければならないと思う。
2021年にオープンした富岡町震災伝承施設、《とみおかアーカイブ・ミュージアム》は、311の記憶だけでなく、富岡町文化交流センター(学びの森)の歴史民俗資料館のコンテンツを移管したことにより、濃密な内容になっている。外観は玄関のみに意匠を集中させているが、常設展示のデザインはお金をかけていた。また見学窓を備え、ガラス越しに収蔵庫や作業室を見せるエリアもある。企画展示室では、神戸大学の槻橋修らによる「記憶の街ワークショップ」の成果物として、失われた街の模型もどーんと設置されていた。
2023/01/07(土)(五十嵐太郎)